1. 国家基本情報
モザンビーク共和国
国名・首都・人口・言語:
モザンビーク共和国(Republic of Mozambique)。
首都マプト(Maputo)は人口約112万人(2017年)を擁する港湾都市。
国土面積約79.9万平方キロメートルで、日本の約2倍に相当する。
人口は約3,389万人(2023年、世界銀行)とサブサハラ地域でも中規模の国家。
公用語はポルトガル語であり、他に多数の先住民族語(マクア語、シャンガーナ語等)が話される多言語社会である。
通貨・経済指標:
通貨はモザンビーク・メティカル(Metical, 通貨記号: MZN)。2024年8月時点の為替レートは1米ドル=約63.9メティカル。
主要産業は農林業(トウモロコシ、砂糖、カシューナッツ等)、鉱業(アルミニウム、石炭、天然ガス等)であり、近年は豊富な天然資源の開発が経済成長を牽引している。
2023年の名目GDPは約206億米ドル、一人当たりGNIは530米ドルと低所得国に分類される水準である(2023年、世界銀行)。
実質GDP成長率は2023年に5%を記録し、物価上昇率(インフレ率)は7.1%で推移した。
失業率は公的統計上3.5%(2023年)と低く見えるが、非正規就労や都市部の高失業が課題となっている。
日本との関係:
1975年の独立と同時に日本はモザンビークを国家承認し、2000年に在モザンビーク日本国大使館を開設して以降、外交関係は良好である。
経済面では日本とモザンビークの貿易額は近年拡大傾向にあり、2023年の日本からモザンビークへの輸出は158.2億円、モザンビークから日本への輸入は263.0億円である。
日本からは自動車や鉄鋼等を輸出し、モザンビークからは天然ガス、石炭、農産品(ゴマなど)を輸入する関係にある。
日本政府は円借款や無償資金協力による開発援助を実施しており、2021年度末までの累計で有償資金協力約752億円、無償資金協力約1,265億円を供与している。
現地に滞在する邦人は148人(2023年10月現在)と少数だが、日系企業は資源開発やインフラ分野を中心に約30社進出している(2020年10月時点)。
2. 法人設立制度
法人形態:
モザンビークの会社法(2005年商法、法令第2/2005号)では5つの形態の法人設立が可能である。一般的に設立される法人形態は、出資者の責任が限定された「有限会社(Sociedade por Quotas)」または「株式会社(Sociedade Anónima)」であることが多い。
有限会社は株主2~30名で設立し(単独出資者による一人有限会社も可)、株式会社は株主3名以上が必要となる。最低資本金額の法定規定は存在しない(資本金額に応じて登記料が変動)ため、少額資本でも設立可能な制度である。
出資比率に関する外資規制は原則存在せず、外国人資本100%で現地法人を設立可能であるj 。ただし特定業種については別途外資参入規制が設けられており、例えば旅行代理店業は筆頭株主がモザンビーク籍でなければならず、民間警備会社は外国資本が株式の過半数を保有できないと規定されている。また建設業については外国企業が公共工事を請け負う場合、10年以上の国内事業経験とモザンビーク資本過半が要求される。
登記・設立手続:
会社登記手続は商工省傘下のワンストップサービス窓口「BAU (Balcão de Atendimento Único)」が一括して管轄する。
設立手順は商業登記所での商号登録 (名称予約)に始まり、
定款の作成・公証 、
登記(登記証明書の取得) 、
税務登録(納税者番号NUITの取得) 、
商業ライセンス(Alvará)の取得 、
初期活動の宣言 、
社会保険公庫(INSS)への登録
という順序で進む。
現在はBAUにてこれら一連の手続きをまとめて行うことが可能であり、首都マプトを含む各州主要都市にBAU窓口が設置されている。
定款は公用語であるポルトガル語で作成し、出資者情報・社名・目的・資本金・機関設計等の基本事項を定めた上で官報掲載される。
全ての法人は営業開始にあたり業種に応じた商業ライセンス を取得する義務がある。製造業や建設業の場合は別途産業別ライセンスも必要となる。
外国企業の活動形態:
海外企業が直接モザンビークで事業を行う場合、現地法人の設立以外に「外国企業商業代表」(Foreign Commercial Representative)として登記する選択肢がある。これは商法第85条に基づき、外国企業がモザンビーク在住の代表者を指名して現地企業に業務委託する形で商業活動を行う制度である。
外国企業商業代表として事業を行う場合も通常の商業ライセンスに加えて所定の認可を取得する必要があるが、現地法人を新設せずに1年以上の継続事業が可能となる枠組みである。
土地所有権:
モザンビークでは憲法上すべての土地が国家所有と定められており、企業や個人による土地の私有は認められていない。
代替措置として土地利用権(通称「DUAT」)が国家より付与される制度であり、外国企業の場合は最初2年間の暫定使用権が与えられ、所定の許可手続きを経て最長50年間の本使用権(更新可)が取得できる。
したがって工場用地やオフィス用地は所有ではなく長期リース(使用権)の形で確保する必要がある。
3. 税制度
法人所得税(IRPC):
モザンビークの法人所得税の標準税率は32%である(2008年法令第9/2008号)。この税率が基本適用されるのは一般企業であり、公益法人(公共事業団体やスポーツ協会等)や政府機関には法人税が課されない。
特定分野には減税措置があり、文化・手工業振興を目的とする組合は税率16%(標準税率の半分)に軽減される。さらに農業・畜産・養殖・都市交通業の事業者については、2023年1月1日から2025年12月31日まで期間限定で法人税率を10%に引き下げる優遇措置が講じられている。
キャピタルゲイン課税 については、非居住者がモザンビーク国内資産を譲渡した場合に32%の譲渡益税が課される(2014年改正)。
源泉徴収税 として、非居住法人がモザンビーク源泉所得を得る場合には原則20%の源泉課税が行われる(農業プロジェクト向け融資利息を除く)。同様に非居住個人に対しても20%の一律課税(源泉徴収)が適用される仕組みである。なお農業部門の振興策として、2023~2025年は国外から農業事業者への支払いについて源泉税10%の軽減税率が適用されている。
付加価値税(VAT):
付加価値税は標準税率16%で全国で課税される。
課税対象は物品の販売およびサービス提供であり、輸出取引には0%税率が適用される。
特定の公益的サービス(金融、医療、教育など)や生活必需品にはVAT非課税措置や免税が定められている。例えば銀行業務、保険、医療・教育サービス、生鮮食品・医薬品等は課税対象外となる。一部品目には**軽減税率5%**も導入されており、ごく一部の指定商品のみに適用される。
VATの納税は月次で行われ、一定規模以下の事業者には簡易課税制度も存在する。
個人所得税(IRPS):
個人の所得税は累進課税であり、所得額に応じて税率が5段階で設定されている。
2023年時点の税率構造は、課税所得0~42,000MZNが10%、42,000超~168,000MZNが15%、168,000超~504,000MZNが20%、504,000超~1,512,000MZNが25%、1,512,000MZN超が32%の最高税率となる。年間所得が一定水準以下の低所得者には定額の控除が認められるほか、扶養家族の人数に応じた控除制度がある。
モザンビーク居住者(年183日以上滞在等の要件)は全世界所得が課税対象となり、非居住者はモザンビーク源泉所得のみ20%の定率課税となる。
その他の税金:
この他、企業・個人には社会保障負担や間接税が存在する。
社会保険料は法定加入制で、雇用者(企業)が給与額の4%、被用者(労働者)が3%を毎月拠出する(詳細は労務制度参照)。
間接税としては、特定消費税(物品税)が酒類・たばこ・高級品等に課されており、例としてタバコ75%、ワイン55%、化粧品30%などの税率が定められている。
関税については南部アフリカ開発共同体(SADC)の協定に基づき域内貿易では段階的な関税撤廃が進められている。
モザンビークは諸外国と租税条約(租税二重課税防止協定)を締結しており、ポルトガル、南アフリカ、インドなど9か国との間で配当・利子・使用料等の軽減税率が適用される。日本とは現時点で租税条約が締結されておらず、日本企業にはモザンビーク国内法の源泉税率(配当20%など)がそのまま適用される点に留意が必要である。
4. 会計・監査制度
会計基準:
モザンビークの財務報告制度は2005年商法および2009年政令第70/2009号に基づいて定められている。2009年の会計制度改革により国際財務報告基準(IFRS)に準拠した勘定科目体系(Plano Geral de Contabilidade)が導入され、2010年1月以降、大中規模の企業はIFRSベースの会計処理が義務付けられた。
具体的には大企業 (年間売上高または総資産が1,275百万MZN超、もしくは従業員500人超)および中企業 (売上高または資産が500百万~1,275百万MZN、従業員250~500人)の企業は、IFRSに準拠した「企業会計制度(SCE)」による財務報告を行う必要がある。
一方、小規模企業 (売上高・資産が500百万MZN未満、従業員250人未満)には報告負担軽減のためIFRSを簡易化したローカル基準(PGC-PE)が適用され、2011年から簡易会計基準が運用されている。
いずれの場合も複式簿記による記帳と年度末の財務諸表作成が法定義務となっており、すべての企業は暦年(1~12月)を事業年度として毎年5月31日までに前年度の決算報告書を税務当局へ提出する必要がある。
監査制度:
上場企業や金融機関などの公益企業は法定監査の対象であり、必ず公認会計士または監査法人による外部監査を受けなければならない。公開会社以外の民間企業については、株式会社(S.A.)および現地支店 に対して計算書類の外部監査が義務付けられている。
一方で最も一般的な有限会社(Quotas社)については法律上必ずしも監査義務はなく、規模に応じて任意監査となっている(ただし銀行借入や株主の要求により監査が行われるケースもある)。
監査人はモザンビーク会計・監査人協会(OCAM)に登録された資格保持者でなければならず、国際監査基準(ISA)に準拠して独立監査を実施する。
モザンビークには監査大手(ビッグ4)の現地事務所が存在し、日系を含む外資系企業の多くはこれら国際事務所や現地有力監査法人のサービスを利用している。
会計実務上の留意点:
帳簿は原則ポルトガル語で整備し、すべての取引を逐次記録することが必要である。法定帳簿には仕訳帳、元帳のほか在庫台帳や固定資産台帳等が含まれ、税務調査時にはこれらの提示を求められる。
また、2018年施行の実質的支配者登録制度により、全ての法人は最終実質支配者(Beneficial Owner)の情報を登記当局に届け出る義務を負う。違反時には法人登記簿上の手続が受理されない等の罰則が定められており、会社設立後はガバナンスやコンプライアンス体制の整備も重要となっている。
5. 労務制度
労働法の概要:
モザンビークの労働法制は2023年に大幅改正が行われ、現行の労働法(法律第13/2023号)に基づき雇用関係が規定されている。
法定労働時間は週40時間(1日8時間×週5日)を原則とし、最大で週48時間まで延長可能とされる。企業は職場ごとに就業時間帯を定め労働省(労働雇用社会保険省:MITESS)に届出・承認を得る義務がある。
時間外労働(残業)は所定労働時間の50%増し以上の割増賃金支払いが必要で、残業時間には月単位・年単位で上限が設けられている。
年次有給休暇は勤続12カ月ごとに連続して1ヶ月(労働日数で24日間)与える規定となっており、未取得分は翌年度に繰越可能だが2年分を超える繰越は無効となる。
女性労働者には産前産後各60日の産休が保障され、休業中の給与は社会保険制度から給付される。
採用と解雇:
雇用契約は書面による締結が義務付けられ、雇用者は全従業員を名簿に登録してMITESSのオンラインシステムへ届出なければならない。
契約形態は期間の定めのない常用契約が基本であるが、プロジェクト単位の有期契約 や試用期間を設けた契約も認められる。有期契約の期間は最長2年で、更新は2回まで可能と規定されている。
解雇については正当な理由(重大な服務規律違反、経営上の合理事由等)が必要で、不当解雇と判断された場合は解雇無効や補償金の支払い命令が下る。勤続1年以上の労働者が解雇される場合、勤続年数に応じた退職金(セベランス)の支払いが法律上義務付けられている。
また従業員代表制度や労使協議手続が整備されており、一定規模以上の企業では労働組合(主要労組はモザンビーク労働組合連合: OTM)との団体交渉を経て就業規則や賃金引上げを決定する慣行がある。
社会保険制度:
モザンビークには全国民を対象とする国家社会保険公庫(INSS)があり、民間企業の従業員は全員加入が義務となる。
社会保険拠出料率は 雇用者負担4%・被雇用者負担3%で、賃金から天引きする形で毎月納付する。
INSS加入により労働者は老齢年金、遺族年金、傷病手当、出産手当等の給付を受ける権利を得る。
なお外国人労働者については母国で類似の社会保障制度に加入している場合、事前申請によりモザンビーク社会保険の加入免除が認められる規定がある。免除を受けない外国人労働者が退職・帰国する際には、それまで拠出した自己負担分の社会保険料(3%相当)の払い戻しを請求できる制度も整備されている。
最低賃金と労働条件:
法定最低賃金は産業別に定められており、毎年労使と政府の協議を経て改定される。
2024年4月に適用された最低賃金は全18部門で平均9.7%引き上げとなり、例えば鉱業セクター(大企業)では前年比+18.0%増の月額14,183.80メティカル(約34,893円)に達した。
農林水産分野など他の部門では月額5,000~8,000メティカル台が多く、都市部の生活費(世帯月平均支出 都市部約12,548メティカル)との開きが指摘されている。
賃金の現地通貨払いが原則だが、高度人材について契約で外貨建て給与を定めることも許容される。
労働災害補償制度も法整備されており、業務上の災害・疾病が発生した場合、雇用者は治療費や休業補償を負担する責任を負う。
外国人労働者の雇用:
モザンビークで外国人を雇用する場合、労働許可(就労許可証)の取得が必要である。外国人の長期雇用枠にはクォータ制 があり、社員規模に応じ次の比率まで外国人を採用できる:
大企業(従業員101人以上)5%、中企業(31~100人)8%、小企業(11~30人)10%、零細企業(10人以下)15%(ただし零細でも最低1名は雇用可能)。
この範囲内で採用する場合は比較的簡易な届出で就労許可が発行される。
クォータ枠を超える外国人を雇用する場合はMITESSへの個別許可申請が必要となり、「モザンビーク人で代替できない高度な資格・技能を有すること」などの条件を満たす場合に限り承認される。
なお投資促進庁(APIEX)認可の大規模プロジェクトに参画する外国人については特別枠があり、別途定められた手続で就労許可が取得可能である。
外国人労働者の契約期間は最長2年で、契約更新により在留期間を延長できる。雇用者は外国人が入国後15日以内に雇用開始を労働省に報告する義務があるが、実務上は就労ビザ取得のため入国前に許可申請を完了させる必要があるため入国後の報告が省略されることも多い。
6. 外国人進出企業向け制度
投資奨励制度:
外国企業の投資は1993年投資法に基づき保護・奨励されている。投資促進機関として2016年に設立されたモザンビーク投資輸出促進庁(APIEX)が窓口となり、一定額以上(外資は最低約250万メティカル)の投資プロジェクトには各種のインセンティブが付与される。
一般的な優遇策として、資本財(機械設備など)を輸入する際の関税・VAT免除、投資額に応じた法人税額控除、設備投資や人材教育費用の税額控除、加速償却の適用などが用意されている。
またモザンビーク政府は特定地域への投資を促進するため経済特区(SEZ)および 産業免税区(IFZ)制度を導入している。
SEZ内に新規企業を設立した場合、法人所得税が最初の3年間免税、第4~10年目は50%減税、第11~15年目は25%減税されるほか、建設資材・機械設備の輸入に係る関税とVATが全額免除される。
IFZに指定された工業団地等に立地する企業には、設立後5年間の法人税免除、第6~10年目50%減税、第11年目以降25%減税の措置がある。
これら優遇措置の適用を受けるにはAPIEXへの投資登録が必要であり、要件を満たすと海外送金(利益や配当金の本国送還)の自由も保証される。実際、投資登録を完了した外国投資家には、現地で得た利益・配当・資本を対外送金できる法的権利(為替管理法上の保証)が与えられている。
入居特区:
現在、政府は全土で6箇所の経済特区と約4箇所の産業免税区を指定しており、代表例としてマプト臨海部のマトラ経済特区や北部ナカラ港周辺の経済特区が挙げられる。
特区内では税制優遇以外にも、ワンストップの行政サービス、インフラ整備支援、輸出手続の簡素化など投資家向けの便宜が図られている。
製造業や輸出志向産業の企業はこれら特区への進出を検討することで大幅なコストメリットを享受できる制度になっている。
ビザ・在留許可:
外国人駐在員がモザンビークに滞在し事業活動を行うには、有効な就労ビザと居住許可を取得する必要がある。
短期の出張や市場調査で訪問する場合にはビジネス査証 を事前に取得し、90日以内の滞在が可能である。長期駐在者には前述の労働許可取得後に居住ビザ(DIRE)の発給を申請する。
2017年以降、初回入国する外国人労働者にはDIREに代わり1年間有効のマルチプル入国就労ビザが発行される運用となっており、これを更新し続けることで長期の在留が認められる。
ビザ延長申請の際には有効な労働契約書、商業ライセンス、納税証明書、無犯罪証明書等の提出が求められj 、手続には相応の時間と費用を要する。
なお2023年時点で日本とモザンビーク間にはビザ免除協定がなく、日本国籍者は原則査証を取得して入国する必要がある(観光目的等の30日以内滞在についてはモザンビーク当局が指定する国に対し電子ビザ等の簡便措置あり)。
為替・送金規制:
モザンビークは外貨管理制度を採用しており、一部の資本取引には中央銀行の事前許可が必要となる。
外為法上、「経常取引」に該当する通常の貿易代金決済やサービス料金の支払いは比較的自由に行えるが、投資資本の移動や国外貸付・借入といった「資本勘定取引」を行う際にはモザンビーク銀行(中央銀行)の承認と登録が求められる。
例えば現地企業が海外から借入を行う場合や、現地で得た売却益を本国に送金する場合には、事前に当局へ届出を行い許可を取得する必要がある。
また、一度に持ち出し・持ち込みできる外貨現金にも制限があり、5,000米ドル相当額を超える外貨を国外へ持ち出す場合は税関で申告が義務付けられている。
もっとも、適法に取得された利益や配当金については上記の投資登録を経ている限り海外送金が原則認められており、実務上は商業銀行を通じて中央銀行の許可手続きを行うことで円滑な本国送金が可能である。
メティカルは国際的な流通性が低いため、大口の取引や資本移動時には米ドル建て・ユーロ建てで資金を管理し、必要に応じて現地通貨に転換する形が一般的である。
7. 金融・資金調達制度
銀行口座開設:
モザンビークで事業を行うには、現地の商業銀行に法人口座を開設し、資本金や運転資金を入金・管理するのが前提となる。
主要都市にはモザンビーク商業投資銀行(BCI)やスタンダードバンク・モザンビーク、モザンビーク国営貯蓄信託銀行(Millennium BIM)などの商業銀行が支店網を持ち、外資系企業にも口座開設サービスを提供している。
口座開設時には会社登記証明書(Certidão)、税務登録証明(NUIT通知)、会社定款、代表者のID(パスポート)や所在証明等の提出が求められる。現地通貨建て口座に加え、必要に応じて米ドル建てなどの外貨口座を開設することも可能である(外貨口座開設には中央銀行への報告が付随)。
外資企業が最初に送金する資本金は、通常本国からの電信送金で商業銀行の外貨口座に入金し、その後必要に応じメティカルに転換して利用する。銀行間決済は電子送金システム(SIMOネットワーク)が整備されており、国内振込は比較的円滑に行える。クレジットカード決済も都市部の大手銀行では普及しているが、地方では現金取引が主体である。
資金調達(借入):
モザンビーク国内での企業向け融資金利は高めで、中央銀行政策金利(MIMO金利)は2024年時点で17.25%と高水準にある。インフレ率が高止まりする中、商業銀行の企業向け貸出金利も年20~25%前後になることが多く、現地通貨建てでの長期借入にはコスト負担が大きい状況である。
このため大規模プロジェクトでは国際開発金融機関や親会社からのローンによる資金調達が併用される。外国親会社から現地法人への貸付(社内融資)を行う場合、事前に中央銀行へ外債登録を行う必要があり、利子支払い時には20%の源泉税が課税される(租税条約が無い日本企業の場合)点に注意が必要である。
一方、モザンビーク政府は中小企業向けの金融支援策として低利融資ファシリティや信用保証制度の整備を進めており、農業や製造業セクターでは特別低金利の融資プログラムが利用できる場合がある。
社債や株式による資金調達に関しては、モザンビーク証券取引所(BVM)が存在するものの上場企業は数社のみで市場規模は限定的である。
したがって外資企業の多くは現地での銀行借入よりも、本国からの資金拠出や国際金融市場で調達した資金を投入する形を取っている。
海外送金と外貨規制:
前項の通り、合法的に取得した利益や配当金については投資登録を条件に本国送金が保証されている。
実際に利益送金を行う際は、年度決算に基づき税務当局から納税完了証明(Quitação)を取得し、これをもとに取引銀行が中央銀行へ送金承認を申請する流れとなる。承認された送金は商業銀行経由で海外の親会社口座へ送金できる。
外貨の国内持ち込み・持ち出し規制については、前述のように5,000USD相当額を超える現金には申告義務があり、銀行送金の場合も1回あたりの送金額が一定額超の場合に当局報告が必要となる。
外国人旅行者や駐在員が出入国時に携行できる外貨現金も上限が設けられており、持込時に申告した金額までが持ち出し許容額となる。
モザンビークでは慢性的な外貨不足もあり、企業が現地通貨を外貨に交換する際に時間を要するケースもみられる。特に輸入代金支払いが経済に与える影響が大きいため、政府は必要に応じ為替の管理や一時的な制限措置を行う可能性がある。
もっとも公式にはIMFルールに則り経常取引の外為規制は自由化されているため、通常の商取引や投資収益の送金が禁止されるようなリスクは低いといえる。
8. 文化・商習慣・その他リスク
腐敗・賄賂リスク:
モザンビークでは行政手続や公共調達の過程において腐敗のリスクが指摘されている。
国際指標で見ると汚職認識指数(CPI)において2022年はスコア26/100と低く、世界で下位クラス(180か国中142位相当)の腐敗状況にあると評価されている。
実際、税関や警察による袖の下要求が散見されるなど、日常業務でも小口の賄賂を求められるケースが報告されている。
モザンビーク政府も汚職防止に取り組んでおり、2012年には反汚職法の制定、汚職対策局(GCCC)の設立が行われたが、司法制度の限界もあり実効性には課題が残る。
政治・治安状況:
政治体制は大統領を元首とする共和制で、独立以来与党フレリモ党が長期政権を維持している。
内戦終結後は基本的に安定しているものの、依然として政治的競争は存在し、選挙前後には野党レナモとの緊張が高まることもある。
また近年懸念されるのが北部カボ・デルガード州における治安悪化である。2017年以降、同地域でイスラム過激派による武装反乱(いわゆるテロリズム)が発生し、天然ガス開発プロジェクトが一時中断に追い込まれるなど影響が広がった。
2021年にはルワンダや南部アフリカ開発共同体(SADC)の支援部隊により主要都市の治安は回復したが、依然として周辺地域では散発的な襲撃が報告されている。
これら紛争リスクは国土の一部に限られるものの、大規模資源プロジェクトの実行可能性に影響を与える要因となっている。
法制度・契約リスク:
モザンビークの裁判所制度は人的・物的リソースが不足しており、訴訟による契約強制には長い年月を要する場合が多い。
世界銀行のビジネス環境指標(2020年)によれば、契約履行(紛争解決)の分野でモザンビークは世界15%以上の国よりも低いガバナンス水準しか持たないと評価されている(法の支配度15.38パーセンタイル)。これは司法の遅延や判決執行の困難さを反映している。
したがって契約上は紛争時の仲裁条項を入れて第三国仲裁を選択可能にする、重要取引では信用状決済やエスクラロー口座を活用するなど、現地での法的紛争リスクを軽減する策を講じることが推奨される。
また近年ではマネーロンダリング防止やテロ資金規制の強化により銀行口座の開設・維持に厳格なKYC手続が課されており、合法ビジネスであっても資金移動時に詳細な資金の出所説明を求められるケースが増えている。
その他のリスク:
モザンビークはインド洋のサイクロン(熱帯低気圧)の通り道に位置し、2019年にはサイクロン・イダイにより中部港湾都市ベイラが壊滅的被害を受けた。気候変動の影響もあり大型サイクロンの上陸頻度は増加傾向にあるため、工場・事務所の建設にあたっては耐風・防水対策が重要である。
加えてインフラの脆弱性から大雨による洪水や停電が日常的に発生しうる点にも留意が必要である。
9. 実務上のポイント
日系企業の進出状況:
進出分野は大きく二種類に分かれ、一つは豊富な資源を活用した資源・インフラ開発プロジェクト 、もう一つは周辺国も視野に入れた市場開拓型ビジネス である。
前者の代表例として、北部沖合の巨大ガス田開発(LNGプロジェクト)には三井物産やJOGMECが参画し、発電所建設では丸紅や住友商事が現地政府との協業を進めている。炭鉱開発ではかつてヴァーレ社(ブラジル資本)と三菱商事が連携し石炭輸出事業を展開した実績がある(同事業は2021年に撤退)。
後者の市場開拓型では、自動車販売(中古車輸出)や物流サービス、建設機械代理店などが挙げられる。例えば豊田通商系列は現地でトラック販売網を運営し、双日系の物流企業が内陸アフリカ向けの貨物輸送拠点としてモザンビークの港湾を活用するなど、南部アフリカ地域のハブとして進出するケースも見られる。
今後は人口増加を見据えた消費財・食品産業への日系企業の関心も高まっており、実際にビール醸造や農業開発での協力案件が進行中である。
他国との比較:
モザンビークの投資環境は、同じポルトガル語圏のアンゴラや隣国南アフリカ共和国と比較して政治的安定性 や経済規模 で見劣りする部分がある。
南アフリカはアフリカ屈指の市場規模と先進的なビジネスインフラを有し、アンゴラは石油富による購買力が強い。一方モザンビークは市場規模こそ限定的だが、地理的に東南アフリカの要所に位置しインド洋交易の玄関口として戦略価値がある。
また労働力コストが低廉で英語圏諸国に比べ勤勉な労働者が多いとの評価もあり、製造拠点候補として潜在力を秘めている。
東アフリカのケニア・タンザニアなどと比べると法制度は大陸法系で安定しており、投資保護の法枠組みも整備されている点は安心材料といえる。
ただし世界銀行のビジネス環境ランキング (Doing Business 2020)ではモザンビークは190か国中138位にとどまり、手続コストや契約執行の面で依然課題が多い。
例えば法人設立に要する手続数は10件・日数17日、建設許可取得に平均118日、納税の種類は年間37件にも及ぶなど、官僚的な手続負担は周辺国と比べても重い部類に属する。
そのため他国と進出先を比較検討する際は、税制優遇や用地確保の容易さなどモザンビーク特有のメリットと、行政手続の煩雑さや市場規模の限界といったデメリットを総合的に勘案する必要がある。
専門家・支援体制:
モザンビークには日本人の公認会計士・弁護士は常駐していない。
言語面では日本語対応は難しいが、在南ア地域の日系コンサルタントが出張ベースで支援するケースもある。
日本政府関連機関の支援窓口も設置されており、在モザンビーク日本国大使館内には「日本企業支援デスク」が設けられている。
ジェトロ(JETRO)はマプトに事務所を持ち、現地情報の提供やビジネスマッチング支援を行っている。
10. 参考リンク・法令ソース
投資・法人登記: モザンビーク投資輸出促進庁(APIEX) – https://www.apiex.gov.mz (投資ガイドライン、特区情報)
モザンビーク商工省 ワンストップ投資センター(BAU) – http://www.bau.gov.mz (会社設立手続の案内)
法的団体登記所(商業登記:CREL) – ※現在はBAUに統合(一部情報は法務省サイトに掲載)
税務当局: モザンビーク歳入庁(AT:Autoridade Tributária de Moçambique) – http://www.at.gov.mz (税法・申告様式)
金融・為替: モザンビーク銀行(中央銀行) – https://www.bancomoc.mz (金融政策、公定歩合、公示レート)
労働行政: 労働雇用社会保険省(MITESS) – http://www.mitess.gov.mz (労働法令、就労許可手続)
国家社会保険公庫(INSS) – https://www.inss.gov.mz (社会保険制度、加入手続)
主要法令: 投資法(法律第3/1993号)・投資法施行令(法令第43/2009号)、商法(法律第2/2005号および改正デクレト法第1/2022号)、労働法(法律第13/2023号)、租税優遇法(法律第4/2009号)、外国為替法(法律第11/2009号)など(官報 Boletim da República にて公開)