1. 国家基本情報

コンゴ民主共和国

国名・首都:
正式名称はコンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo)。首都はキンシャサ。アフリカ中部に位置し、面積約234.5万平方キロメートルを有する。人口は約9,901万人(2022年世銀)。
通貨・為替:
現地通貨はコンゴ・フラン(Franc Congolais, 通貨記号FC)。為替レートは 1 USD = 2,900 コンゴ・フラン(2025年5月平均)。インフレ率が高めで、自国通貨の信用度が低いため国内経済は一部ドル化している。
経済指標:
GDPは約660億米ドル(2022年、世界銀行)、一人当たりGNIは約653ドル(2022年)。近年は鉱業セクターの好調により実質GDP成長率8.9%(2022年)を記録。インフレ率は19.1%(2023年、IMF)と高く、中央銀行が金融引締めを継続。主要産業は鉱業(銅・コバルト・ダイヤモンド・金など)で、鉱物資源がGDPの約4分の1、輸出額の約9割を占める(2024年時点)。農林水産業も潜在力は高いがインフラ不足などで発展途上。
日本との関係:
1960年の独立時に日本が国家承認し外交関係樹立。対日貿易は日本への鉱産品輸出が中心で、貿易額は対日輸出231.51億円・対日輸入50.88億円(2023年、日本財務省)。日本からは自動車・機械類の輸出が多い。進出日系企業は5社(2024年4月現在)と少数で、在留邦人も73人(2023年10月現在)に留まる。日本は政府開発援助(ODA)を通じインフラや人道分野で支援しており、近年経済産業大臣の訪問(2023年8月)など両国関係強化の動きがみられる。
2. 法人設立制度
法人形態:
コンゴ民主共和国は2012年にOHADA(アフリカ統一商事法機構)に加盟しており、同機構の統一会社法が適用される。
主な法人形態は次のとおりである:
- 無限責任社員のみの合名会社(SNC)
- 無限責任社員と有限責任社員からなる合資会社(SCS)
- 小規模・非公開会社向けの有限会社(SARL)
- 大規模・公開会社向けの株式会社(SA)
- 柔軟な会社形態である簡易株式会社(SAS)
このほか外国企業は現地で支店(現地法人化しない営業拠点)や駐在員事務所を設置することも可能。
外資規制:
原則として外資による企業所有に一般的な出資比率規制はない。外国企業も内国企業と同様に事業を営める。
ただし、外資の参入が法律で禁止されている分野がある。2002年の投資法(法律第004/2002号)により、「小規模商業(零細な小売業)」「武器の製造」「軍事関連産業」の3分野は外国資本の参入禁止と規定されている。
それ以外の分野では外国企業にも内国民待遇が与えられており、公共調達への参加も制限なく認められる。
資本金要件:
OHADA統一会社法に基づき、株式会社(SA)には最低資本金1,000万CFAフランの要件がある(OHADA規定による。コンゴ・フラン換算で約5億CDF前後)。株式の額面金額は1万CFAフラン以上と定められる。
一方、有限会社(SARL)および簡易株式会社(SAS)には最低資本金の定めがなく、少額資本で設立可能である。
出資は設立時に全額払込が必要。なお、新規会社設立時には資本金額の1%を会社設立税として国に納付する(ただしSARLやSASは免除)。
登記手続き:
企業設立時には商業・会社登記の申請、税務局での納税者登録、社会保障機関への加入申請など一連の手続きが必要となる。
投資促進庁ANAPIに「企業設立ワンストップ窓口(Guichet Unique)」が設置されており、ここで必要書類の提出と手数料支払いをまとめて行うことで手続きを簡素化できる。法律上は4つの手続と7営業日ほどで設立完了可能とされる(2020年世界銀行調査)が、実務では追加照会や当局対応の遅れにより数週間を要する場合もある。
定款の作成(公証人認証)後、商業登記証明の取得をもって法人が成立し、その後税務ID(NIF)や社会保険IDを取得して事業開始となる。
3. 税制度
法人税:
コンゴ民主共和国の法人所得に対する課税は利益・利潤税(Impôt sur les Bénéfices et Profits, 略称IBP)と呼ばれる。
標準税率は30%(2019年度財政法に基づく)である。ただし最低税額制度があり、算出された税額が「申告売上高の1%」に満たない場合でも1%相当額を納付しなければならない(赤字の場合も最低税が適用される)。
課税所得は収入から必要経費を控除して算定されるが、費用計上には厳格な要件があり関連当事者取引や海外支払いは一定条件下でのみ損金算入が認められる。
納税は暦年単位で行われ、通常は年度末に申告・精算する(四半期ごとの予定納税制度あり)。
付加価値税(VAT):
2012年より付加価値税(TVA)が導入されており、物品・サービスの国内取引および輸入が課税対象となる。
標準税率は16%で、食料品など一部に軽減税率やゼロ税率品目がある。
課税事業者には事前登録が義務付けられており、年間売上高が一定額(法令で規定)を下回る小規模事業者はVAT免除事業者となる。
申告・納付は月次で行い、期限までの申告漏れには150万CDFの罰金、無申告にはさらに重い罰則が科される。
輸入時には輸入VAT(16%)が関税とは別に徴収される。
個人所得税:
給与所得に対しては職業報酬税(IPR)が課される。累進課税方式であり、所得区分ごとの税率は3%から最大40%まで段階的に上昇する。ただし税額には「所得の30%」という上限が設定されており、高額所得者でも実効税率が30%を超えない仕組みとなっている。例えば月収が43,200,000CDFを超える部分に40%の税率が適用されるが、総税額は月収の30%に制限される。
標準的な給与所得者の場合、源泉徴収により雇用者が毎月納税する。扶養家族控除など若干の控除制度はあるが額は限定的である。また、駐在員など外国人労働者の給与については後述の特別税が追加で適用される。
その他の税金:
上記以外に源泉徴収される所得税・間接税が複数存在する。
配当金や利子には動産所得税(IM)が課され、標準税率は20%(鉱業会社の配当は10%)である。
非居住者(海外法人・個人)に支払うサービス料には14%の源泉税が課される。さらに、外国人駐在員の報酬には駐在員報酬特別税(IERE)として25%が追加課税される(この特別税は社会保障負担金算定基礎と同一の額に課され、法人税の損金に算入不可)。
そのほか主な税種として、不動産に対する不動産税(年間1%前後)、輸出に係る税、車両税などがある。付加価値税や関税以外にも物品税・消費税が特定品目(燃料やアルコール等)に課される場合がある。
4. 会計・監査制度
会計基準:
コンゴ民主共和国では、OHADAの統一会計制度(SYSCOHADA)が適用される。一般企業はOHADA会計基準に従い記帳・財務報告を行う。
一方、上場企業や市場で資金調達を行う会社については国際会計基準(IFRS)の適用が義務付けられている。
非上場企業でも任意にIFRSを採用することは許容されているが、通常はOHADA基準にもとづく財務諸表作成となる。
会計年度は暦年(1〜12月)であり、年度末に貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書および注記を作成することが求められる。
監査要件:
すべての株式会社(SA)および大規模企業には財務諸表の外部監査が義務付けられる。
株式会社では定款で監査役会(監査法人)を設置し、年度ごとに監査報告を書面提出する必要がある。
有限会社(SARL)や簡易株式会社(SAS)については中小規模であれば法定監査義務はないが、一定規模以上の場合には監査人(コミッサール・オ・コンプト)の選任が義務となる。
その基準はOHADA規定で定められており、年間売上高が2億5千万CFAフラン超、総資産1億2千5百万CFAフラン超、従業員50人超の3条件のうち2つ以上を満たす有限会社・SASは監査義務企業とみなされる。義務が生じる場合、資格を持つ公認会計士から監査報告を受けなければならない。
登録要件:
会計・監査の専門家については国家による資格制度が整備されている。財務諸表の監査を行うにはコンゴ民主共和国の公認会計士資格(Expert-comptable)を保持し、所定の名簿に登録している必要がある。
監査人は独立性要件を満たし、職業団体に所属することが求められる。「永続会計評議会(CPCC)」という機関が会計基準や専門家資格の監督を行っており、この下で会計士資格の認定・登録が行われている。
財務諸表の提出:
全ての企業は事業年度終了後に年間の財務諸表を作成し、税務申告とあわせて提出する義務がある。通常、暦年の翌年4月30日までに法人税の確定申告書とともに財務諸表を税務当局へ提出する(期限超過の場合、初回違反で20%、再犯で40%の加算税・罰金)。
また企業は株主総会等で財務諸表の承認を行い、一定規模以上の会社はその要約を官報等で開示する義務もある(OHADA会社法の規定による)。提出された財務諸表は税務当局および統計当局で管理され、監査済みであることが求められる。
5. 労務制度
雇用契約:
労働契約の形態は大きく分けて有期契約と無期契約がある。さらに日ごとに更新される日雇い労働(短期臨時契約)も認められる。
有期雇用契約の期間は最長2年間であり、一度のみ契約更新が可能(季節労働や特定プロジェクトの場合等を除く)。2回目の更新や2年を超える継続雇用となった場合、その労働者との契約は期間の定めのない無期契約とみなされる。
無期契約は企業の常設ポストに従事させる際に結ぶもので、試用期間を設けることができる。試用期間は現場作業労働者で最長1カ月、それ以外の被用者で最長6カ月と労働法に規定されている。
最低賃金:
法定最低賃金(SMIG)は全国一律に定められている。
2018年5月22日政令第18/017号により改定され、2019年1月以降の最低賃金は日額7,075~70,750 CDFとなっている(未熟練労働者から管理職までの職能等級に応じた幅)。これは1日8時間労働を前提とした額であり、月給換算ではおおよそ約212,250~2,122,500 CDFとなる。
賃金の支払いは日払い・週払い・月払いのいずれも認められ、支払期日から6日以内に行う必要がある。
労働時間:
週労働時間は45時間と法定で定められている(労働法119条)。通常は1日9時間労働×週5日で45時間となる。
労働法121条により、労働者は7日間につき連続48時間(2日間)の休日を取得する権利があり、週休2日制が基本である。
所定労働時間を超える労働は時間外労働となり、本来は割増賃金の支払いが必要だが、新労働法下では詳細な超過勤務手当率が未設定である。そのため暫定的に旧労働法(2002年以前の規定)や企業内規則に基づき、時間外手当の支給が行われている。
一般的な慣行では、平日の残業は基礎賃金の+30%、休日出勤は+100%といった割増率が適用されるケースが多い。
解雇・退職:
従業員を解雇(雇用契約解除)する場合、正当な理由(就業規則違反や経済上の必要等)が求められ、重大な背信行為(重大な非行)による解雇を除き予告期間の通知が必要である。
予告期間は労働者の職種カテゴリーと勤続年数に応じて定められている。具体的には、一般労働者(カテゴリーI~V)は14営業日+勤続1年ごとに7営業日、職長クラスは1カ月+勤続1年ごとに9営業日、管理職は3カ月+勤続1年ごとに16営業日の予告期間を要する(2005年10月26日省令で規定)。従業員から自主退職する場合の予告期間はこれらの半分で足りる。
使用者(会社)の都合で予告なしに即時解雇する場合、使用者は労働者に対し本来の予告期間に相当する賃金の補償金を支払う義務がある。また、有期契約を不当に期限前解除した場合は契約残存期間の給与相当額、無期契約を不当解雇した場合は裁判所が算定する損害賠償額の支払い義務が生じる。
労働争議・労使関係:
労働者は憲法上、団結権・団体交渉権・ストライキ権が保障されている。複数の労働組合(産業別・職能別)が存在し、主要な組合としてコンゴ労働組合同盟などが活動している。
雇用者側もコンゴ企業連盟(FEC)等の団体を組織し、2005年には全国労使代表による包括的な労働協約が締結された。この全国協約により賃金や手当の最低基準、労働条件に関する共通ルールが定められており、各企業・産業の個別協約と併せて労使関係の枠組みとなっている。
6. 外国人進出企業向け制度
特別経済区と投資優遇:
コンゴ民主共和国政府は外国投資誘致のため特別経済区(ZES)を設置している。2014年法律第14/022号により制度化され、首都圏マルク(キンシャサ郊外)など全国で3箇所が指定されている(開発段階のパイロットZESを含む)。
特別経済区に進出する企業には各種の税制優遇が与えられ、例えば一定期間の法人税免除、輸入関税の減免、手続きの迅速化などが適用される。
また、一般の投資プロジェクト向けにも投資法(2002年法)に基づく優遇制度がある。投資促進庁から投資認可(Agrément)を取得した案件については、投資先の地域区分に応じて法人所得税が3〜5年間免除される。さらにプロジェクト用機械設備の輸入関税が免除(スペア部品も設備価値の10%相当額まで免税)され、プロジェクト用地に係る不動産税も免除となる。地域区分はA(首都圏など)・B(主要都市圏)・C(地方)の3区に分かれ、経済的に開発が遅れた地域ほど長い優遇期間(最大5年)が認められる。
これらの優遇措置は投資法に定められた範囲であり、企業は認可条件(現地雇用創出や投資額要件など)を維持する限り恩恵を受けられる。
投資促進機関:
ANAPI(投資促進庁)が外国投資のワンストップ窓口として機能している。ANAPIは投資案件の審査・認可権限を持ち、先述の税制優遇(法人税免除や関税免除)の付与手続きを担当する。また、企業設立の単一窓口を運営しており、会社登記や各種許可取得を一元的にサポートする。
ANAPIは投資家への情報提供、官僚手続の簡素化提言、事業環境の改善提唱など幅広い役割を担う政府機関であり、大統領直轄のビジネス改革チームと協働して投資環境整備を推進している。
ビザ・労働許可:
外国人駐在員・労働者がコンゴ民主共和国で就労するには労働許可証(permis de travail)と労働ビザの両方が必要となる。
まず雇用主を通じて労働省管轄の機関から労働許可を取得し、その後、移民局(DGM)にて在留資格に対応した「企業ビザ(労働滞在ビザ)」を申請する流れとなる。
このビザは2年間有効で、労働許可の更新に合わせて延長可能である。
労働許可は職種ごとに定められた条件(学歴・実務経験等)を満たすことが要件で、取得には雇用契約書、学位証明、健康診断書などの提出が必要。
また短期出張者向けには短期ビザがあり、7日〜3カ月の範囲で発給される。入国に際して黄熱病予防接種証明の提示義務がある点にも留意が必要。
外貨規制:
コンゴ民主共和国では外為管理が一部存在するが、概ね比較的自由化されている。
外貨の保有は自由であり、居住者(企業・個人)が国内銀行に外貨建て口座を開設することも中央銀行の許可なく認められている。
外国為替の持ち出し・持ち込みについては、現金等携行の場合1人あたり1万米ドル相当額まで無申告で持ち出し・持ち込み可能。それを超える場合は税関への申告が必要であり、超過分は銀行送金で行うこととされる。
国内における支払いはコンゴ・フラン建てが原則だが、契約当事者間の合意により外貨建てによる価格表示・決済も合法的に行うことができ、実際に米ドル現金や外貨口座での決済も広く用いられている。
留意すべき規制として、対外送金・海外からの送金には一律0.2%の為替手数料が課される点がある。この手数料は中央銀行(BCC)に納付される法定のもので、大口資金移動時にはコスト要因となる。
また、輸出代金については適正な為替経路を通じて受領する義務があり、不正な資金流出入防止のためAML/CFT法制による監視も行われている。
7. 金融・資金調達制度
銀行口座開設手続き:
現地法人または駐在事務所は、ビジネス開始にあたり銀行口座を開設する必要がある。口座開設には登記証明書、納税者番号証明(NIF)、代表者身分証などの書類提出が求められる。
主要都市には大手民間銀行が営業しており、主な銀行としてRAWBANK、トラストマーチャントバンク(TMB)、エクイティBCDC(旧コンゴ商業銀行BCDCとケニア系Equityの統合銀行)などが挙げられる。外国資本の銀行もスタンダードバンク系などが進出している。
口座開設手続き所要期間は銀行によるが、必要書類が整っていれば数日〜2週間程度で完了する。近年、金融当局は口座開設簡素化に取り組んでおり、中小企業向けには要件緩和も進められている。
現地借入・金利水準:
コンゴの金融市場は未発達であり、企業が現地銀行から資金調達する際には高金利と貸付条件の厳しさに直面する。インフレ率が二桁台と高いため、中央銀行政策金利は25%(2023年8月の引き上げ以降)という非常に高い水準に設定されている。民間銀行の商業貸出金利もこれに連動して年利20〜30%前後と推計され、長期資金の借入コストは非常に大きい。
銀行は慎重な融資姿勢をとっており、担保や保証の提供が求められるほか、企業の信用履歴が十分でない場合は融資自体が困難となる。結果として、中小企業は銀行融資よりも親会社からの社内融資やマイクロファイナンス、国際機関の投融資スキームに頼るケースが多い。
政府は将来的に国内資本市場の整備(債券市場創設など)を目指しているが、現時点では企業にとってローカルでの資金調達コストは非常に高いハードルとなっている。
送金・為替サービス:
国際送金については、銀行送金(SWIFT)が主流である。
主要都市の銀行は外為取引部署を有し、海外への送金や輸入信用状(L/C)の発行に対応している。前述の通り、海外送金・受取には0.2%の為替手数料が課されるため、大口送金ではコスト計算に留意が必要。
為替サービス面では、企業は銀行経由で現地通貨と米ドル等の交換を行う。コンゴ・フランは市場で流動性が低く、大口の現地通貨調達には中央銀行のオークションを利用することもある。
少額の送金や決済については、モバイルマネー(携帯電話を用いた送金サービス)が急速に普及している。通信大手のVodacom社「M-Pesa」やOrange社「Orange Money」などが国内送金・決済プラットフォームを提供し、銀行口座を持たない人々の間でも電子ウォレットで資金のやり取りが可能となっている。都市部では公共料金支払いや小売代金決済にモバイルマネーを利用する事例が一般化しており、企業も小口支払いでこれらサービスを活用する動きがある。
フィンテック動向:
コンゴ民主共和国は金融包摂が課題であり、成人の銀行口座保有率が一桁台と低水準に留まっている(2017年世界銀行Findexでは約26%が何らかの口座を保有、銀行口座に限れば4%程度との推計)。
しかしモバイルマネーの利用は爆発的に拡大しており、携帯電話による送金・決済アカウント数は2020年から2023年にかけて約3倍(+229%)増加し延べ2,167万件に達した(2023年第3四半期、通信規制当局統計)。これは人口の約2割強に相当し、地方農村部まで含めた送金ネットワークが広がっていることを示す。
政府もこの流れを重視し、中央銀行を通じてフィンテック企業へのライセンス付与や電子決済の法整備を進めている。例えば2020年には電子マネー発行者の規制を強化し、利用者保護と信頼性向上を図った。
8. 文化・商習慣・その他リスク
契約遵守文化:
法制度上は契約の拘束力が認められているものの、実務面での契約遵守・履行には課題が残る。商事紛争を裁く商業裁判所は存在するが手続きに時間がかかり、判決執行にも官僚的遅延が生じやすい。世界銀行のビジネス環境指標(Doing Business 2020)によれば、コンゴ民主共和国の契約執行の容易さは183位/190カ国と極めて低く、契約を法的に強制するには相当のコストと時間を要する。
汚職・賄賂リスク:
コンゴ民主共和国は汚職リスクが極めて高い国の一つである。透明性国際の腐敗認識指数(CPI)では2023年にスコア20/100・順位162位/180カ国と、世界でも最下層レベルに位置する。官民セクター双方で汚職慣行が深く根付いており、企業は行政手続きや税務調査、契約履行の局面で賄賂要求や不透明な取り扱いに直面しがちである。特に鉱山権益や大型契約を巡っては高官レベルの汚職疑惑もしばしば報じられている。
治安・政情リスク:
広大な国土の中で地域により治安情勢が大きく異なる。
東部国境地帯(北キヴ州やイトゥリ州など)では今なお武装勢力による紛争や治安不安が続いており、誘拐や襲撃事件のリスクが高い。
一方、首都キンシャサや南東部ルブンバシなど主要都市では内戦の影響は及んでいないものの、政治的な不安定要因に注意が必要である。
2019年に政権交代(ツシュisekedi大統領就任)が平和裡に実現したが、その後も与野党の対立は根強く、2023年12月に実施された大統領・議会選挙では現職ツシュisekedi氏が再選を果たしたものの野党側は不正を主張し緊張が残る。選挙前後には一部地域でデモや騒乱が発生しており、政情変動期にはビジネスへの影響も懸念される。
また都市部の犯罪率も高く、強盗・窃盗事件が多発する傾向にある。夜間の外出や移動には警備員の同行や複数名での行動を心がけ、防犯対策を徹底する必要がある。
医療インフラや公衆衛生も脆弱であり、エボラ出血熱のような感染症流行やパンデミック時の対応力にも不安が残る。
総じて、治安・政情リスクは事業継続上の大きな不確定要素であり、最新情報の収集と危機管理計画の整備が欠かせない。
9. 実務上のポイント・進出のしやすさ
競争優位性・課題:
DRC市場の魅力・競争優位性としてまず挙げられるのは、その豊富な天然資源である。銅、コバルトを筆頭に世界有数の埋蔵量を誇り、電池・ハイテク分野の需要が高まる中で戦略的価値が高い。
また、人口約1億人というサブサハラアフリカ第4位の人口規模は将来的な巨大消費市場として潜在性を持つ。
地理的には9か国と国境を接し、アフリカ中部の物流ハブとなる可能性も秘めている。
一方、ビジネス環境上の課題は非常に大きい。
インフラ未整備は深刻で、電力供給不足や道路・鉄道網の欠如が製造業発展を阻んでいる。例えば主要都市でも停電が日常茶飯事で自家発電が不可欠な状況である。法制度の不透明さや行政の非効率も企業にとって障壁であり、規制の解釈が担当官によって異なる、不測の許認可遅延が起こる、といったリスクが常に存在する。
加えて先述の治安リスクや汚職風土は外国企業にとって大きな不安要素である。世界銀行のDoing Businessランキング(2020年)では総合183位/190か国とビジネスのしにくさが際立っており、「世界で最も事業運営が難しい国の一つ」との評価もある。
競争上は、欧米・中国企業が鉱山やインフラで長年のプレゼンスを持つ中、日本企業は後発参入ゆえ現地ネットワークや情報面で劣勢になりやすいという課題もある。しかし逆に言えば、他社が敬遠する難市場ゆえに参入余地やニッチ分野が残されている可能性もあり、政府開発援助や国際機関と連携した進出戦略により優位性を見出す余地もある。
手続き難易度:
コンゴ民主共和国への新規進出に際しては、各種手続きの煩雑さと時間のかかるプロセスを覚悟する必要がある。会社設立手続き自体は前述のとおりワンストップ化が図られ簡素化されつつあるが、実際には各役所での書類審査や担当者の判断に時間を要し、想定以上に開業まで期間を要する例が多い。
特にライセンスや許認可取得(例:輸出入業の登録、製造業の環境許可など)には所管官庁間の調整不足や申請要件不明確さから度重なる補正・追加要求が発生しやすい。許認可取得に非公式な便宜供与を求められる場合もあり、これを拒否すると更に処理が遅延する、といった悪循環も報告される。
専門家ネットワーク:
法律・会計分野では、キンシャサやルブンバシに国際系法律事務所や会計事務所の拠点が存在し、現地法務・税務について専門的支援を提供している(多くはフランスやベルギー系の事務所)。