1. 国家基本情報

コートジボワール共和国

国名・首都
コートジボワール共和国
首都はヤムスクロである。主要な経済・商業都市はアビジャンである。
通貨・為替
通貨は西アフリカ CFA フラン(XOF)を採用している。
1 USD = 約 600 XOF(2025/05 月平均)。ユーロとの固定相場制度がとられている。
経済指標
- 人口:約 2,800 万人(2024 年)。
- 名目 GDP:約 750 億 USD(2024 年推定)。
- 主な産業は農業(カカオ、コーヒー)と石油製品、サービス業などである。
- 政府はインフラ開発と産業多角化を推進している。
日本との関係
日本との外交関係は良好である。日本企業によるインフラ整備や農産物取引など、経済・技術協力が行われている。特にカカオ豆、コーヒーなどの農産物輸入が多い一方、自動車や機械類の輸出も徐々に増加している。
2. 法人設立制度
法人形態
代表的な法人形態としては、株式会社(SA)と有限会社(SARL)がある。さらに、支店(Branch)や駐在員事務所(Liaison Office)の設立も可能である。
- SA(Société Anonyme):大規模事業に適している。株式譲渡の自由度が高い。取締役会の設置義務があり、取締役の人数や監査役の設置が求められる場合がある。
- SARL(Société à Responsabilité Limitée):中小規模事業に多い。株式(持分)の譲渡には既存株主の同意が必要となる。取締役会の設置義務はない。
- Branch(支店):本社がコートジボワール国内で行う事業活動を管理するための拠点であり、現地法人としての独立した法人格を有しない。契約行為や納税義務は本社名義で負うことが多い。
- Liaison Office(駐在員事務所):情報収集・市場調査など限定的な活動のみを行う事務所であり、直接の商取引を行わないことが原則である。
外資規制
特定の戦略セクター(鉱業、電力、通信など)では免許や許可が必要であるが、原則として外資企業の 100% 出資も認められている。外国資本に対し最低出資比率や現地パートナーの強制参加を求める制度は大幅に緩和されている。ただし、公共インフラや公益事業などでは政府機関との協議が必要となる。
資本金要件
- SA(株式会社):最低資本金は 1,000 万 XOF。現金出資や現物出資が認められる。設立時には資本金の一定割合を金融機関の専用口座に払い込む。
- SARL(有限会社):最低資本金は 100 万 XOF。設立登記前に最低 50% 程度を払込むことが一般的である。追加出資や増資手続きは公証人を通じて行う。
登記手続き
- 社名の予約:商業登記所へ申請し、重複のない商号を確認する。
- 定款の作成・認証:公証人が起案または確認し、資本構成や事業目的を明記した定款を認証する。
- 銀行口座開設・資本金払込:定款認証後、仮口座に資本金を払込み、払込証明書を取得する。
- 商業登記所への登録:登記申請書に定款、公証証書、払込証明書などを添えて提出する。
- 税務登録:納税者番号(NIF)の取得や付加価値税(VAT)番号の登録が必要となる。
- 社会保障機関への登録:従業員を雇用する場合は社会保険機関(CNPS)などへの登録を行う。
手続き完了までの目安期間は 2〜3 週間程度であるが、書類不備や認証手続きに時間を要する場合はさらに長期化する。商業登記所や公証人費用、印紙代、登録手数料など初期費用が数十万 XOF〜数百万 XOF 規模で発生する。
3. 税制度
法人税
法人税率は 25%(2024 年時点)である。
課税所得は、フランス語圏西アフリカ会計基準(OHADA 会計基準)に基づく企業利益をベースに加減算調整して算出する。
決算期末から 4 か月以内に法人税確定申告を行い、納税をする。
事業開始から一定期間の繰越欠損(数年間)が認められる。
付加価値税(VAT)
標準税率は 18% である。食料品や医薬品などの必需品には軽減税率や非課税が適用される場合がある。
事業者は毎月または四半期ごとに VAT の申告および納税を行う。
仕入 VAT は売上 VAT と相殺が可能であり、過剰払い分は繰り越しや還付の対象となる。
個人所得税
個人所得税は 2% から最高 36% までの累進課税となる。
雇用主は給与支払時に源泉徴収を行う義務がある。源泉徴収した税額は毎月または四半期ごとに税務当局へ納付する。
外国人駐在員の場合は、年間滞在日数や常勤拠点の有無で居住者・非居住者区分が判定され、課税対象所得が変動する。
その他の税金
- 源泉徴収税:配当や利子、ロイヤルティなどに対して 10〜15% 程度の税率が適用される。二重課税防止のため一部国との租税条約が存在する。
- 固定資産税:土地や建物に対して課せられる。所在地や用途により税率や免税措置が異なる。
- 業種別特別税:鉱業ロイヤルティや石油関連の生産分与方式など、セクターに応じた課税制度が整備されている。
- 地方税:事業所所在地に応じたコミュニティ税やライセンス料が課せられることがある。
4. 会計・監査制度
会計基準
コートジボワールを含む OHADA 加盟国では、OHADA 会計法に基づく統一会計基準(SYSCOHADA)が適用される。フランス会計基準に近い特徴を有するが、加盟国共通で適用するため、国内各省庁の追加規則にも留意する必要がある。大規模多国籍企業や特別な状況下では IFRS を併用する事例もあるが、法的には OHADA 基準が優先される。
監査要件
大規模企業や金融機関、上場企業などは法定監査の義務がある。一般には、一定の売上高・資本金・従業員数を超える会社は外部監査人を選任し、毎年度の監査報告書を作成しなければならない。外資企業についても、該当基準を満たす場合は必ず監査を実施する。
登録要件
監査を行うためには、公認会計士(Expert-Comptable)や監査法人(Cabinet d’Audit)がコートジボワール公認会計士協会(Ordre des Experts-Comptables)の登録を受けている必要がある。海外の監査法人が業務を行う場合は、現地有資格者との共同監査またはパートナーシップを締結することが一般的である。
財務諸表の提出
決算終了後に作成された財務諸表(貸借対照表、損益計算書、附属明細など)は、所定の期間内(通常 4〜6 か月以内)に商業登記所へ提出する。監査対象企業は監査報告書も同時に添付する。財務諸表は税務申告でも基礎資料となるため、正確かつ期限内の提出が求められる。
5. 労務制度
雇用契約
労働法に基づき、書面による契約締結が原則である。期間の定めのない雇用契約が一般的だが、特定の業務期間に応じた有期契約も認められる。
最低賃金
政府が定める全国一律の最低賃金制度がある。2024 年時点では月額約 60,000 XOF 前後とされている。
労働時間
週 40 時間を超える場合は時間外労働として割増賃金が必要となる。
休日は週 1 日以上を付与する義務がある。
解雇・退職
正当な理由なく解雇することは認められない。経済的理由や重大な過失がある場合には手続きに従い解雇が認められる。
退職金制度は勤続年数に応じて法定で定められている。
労働争議・労使関係
労働組合の影響力が高く、集団交渉による賃金決定が行われる場合がある。
労働争議が生じた場合は、労使関係当局が仲介に入る制度が整備されている。
6. 外国人進出企業向け制度
特別経済区と投資優遇
輸出志向型産業を対象とした特別経済区(ゾーン・フラン)が一部地域に設置されている。
所得税免除や関税優遇などのインセンティブが付与される。
投資促進機関
投資促進センターが設立されており、外国投資家に対して登記手続きのガイドや許認可の取得支援を行っている。
投資優遇措置の認定申請なども取り扱う。
ビザ・労働許可
一般的に 90 日を超える長期滞在には就労ビザと労働許可が必要となる。
雇用主によるスポンサーシップを前提とし、担当省庁への申請手続きが必須である。
外貨規制
西アフリカ中央銀行(BCEAO)の監督下で一定の外貨規制が存在する。
輸出入取引や大口送金を行う際、中央銀行や金融機関への報告義務が生じる。
7. 金融・資金調達制度
銀行口座開設手続き
法人設立後、商業登記書類や税務登録証などを提示して現地銀行で口座を開設する。口座開設には代表者の身分証明書、定款、法人代表印なども必要となる。
現地借入・金利水準
商業銀行を通じた短期・中長期借入が利用可能である。金利はインフレ率や中央銀行政策金利の影響を受け、年 8〜12% 程度(2025/05 時点)が一般的水準である。
送金・為替サービス
XOF はユーロに連動しているため、欧州向け送金は為替コストが比較的安定している。USD 決済の場合は市中銀行の相場に基づき、手数料が上乗せされる。
フィンテック動向
モバイルマネーやオンライン決済システムが近年急速に拡大している。小売業やサービス業におけるキャッシュレス化の動きが進んでいる。
8. 文化・商習慣・その他リスク
契約遵守文化
契約を重視する一方で、合意内容の履行に対して時間がかかることがある。
支払いスケジュールなどは細かく確認し、書面化を徹底する必要がある。
汚職・賄賂リスク
公的手続きでの遅延や不透明な要求が問題視されている。
ガバナンス改革が進んではいるが、行政手続きの簡素化や情報公開の改善は道半ばである。
治安・政情リスク
近年は政情は比較的安定しているが、一部地域で治安リスクが残る。
政治情勢の変動に伴いデモや抗議運動が発生する場合があるため、最新情報の収集が必要である。
9. 実務上のポイント・進出のしやすさ
競争優位性・課題
日本企業の技術力や品質管理は評価されている。一方で物流インフラや電力安定供給に課題が残る。現地調達や人材育成に取り組む企業ほど長期的競争力を確保しやすい。
手続き難易度
法人設立や税務登録などの主要手続きは簡素化されてきており、比較的短期間で完了できる。ただし労働許可や輸入許認可などの行政手続きは煩雑なケースがある。
専門家ネットワーク
公認会計士や弁護士などの専門家ネットワークを活用することで、制度変更や書類作成のサポートを受けられる。日本語対応可能なコンサルタントはまだ限られている。