1. 国家基本情報

ナイジェリア連邦共和国

国名・首都
ナイジェリアの正式名称はナイジェリア連邦共和国である。
首都はアブジャであり、国土面積は約 92 万平方キロメートルである(2024 年時点推計)。
通貨・為替
通貨はナイラ(NGN)である。
為替レートは 1 USD=460 NGN(2025/05 月平均)で推移している。
ナイジェリア中央銀行は公式レートを維持する方針を掲げるが、実勢と差が生じる場合がある。
経済指標
人口は約 2 億 2,500 万人(2024 年時点推計)でアフリカ最大規模である。
名目 GDP は約 4,800 億米ドル(2024 年推計)とされ、アフリカ最大の経済規模を持つ。
経済は原油輸出に依存する一方、農業やサービス業の比重が拡大し、多様化が進んでいる。
日本との関係
自動車や電子機器を中心とする輸入が多く、日本からは主に工業製品・機械類などが輸出される。日本企業の進出は製造業のみならず、商社やサービス業にも拡大傾向にある。
政治的にはアフリカにおける主要国として二国間協力が継続され、インフラ整備をはじめとした開発協力が行われている。
2. 法人設立制度
法人形態
一般的な形態として有限責任会社(Private Limited Company)と公開会社(Public Limited Company)がある。ナイジェリアでは外国資本が全額出資する法人の設立も認められている。支店や駐在事務所の形態をとる場合は、商業活動や納税義務の範囲が限定されるため、進出目的に応じた検討が必要である。
外資規制
原則として外資規制は緩やかであり、ほとんどの業種で 100% 外資が認められる。しかし石油・ガス、一部鉱業や通信など戦略セクターでは特定のライセンスが必要となり、技術移転や現地人材育成を義務付けられる場合がある。
また投資総額が大きい場合は、ナイジェリア投資促進委員会への届け出が推奨される。
資本金要件
有限責任会社の法定最低資本金は比較的低額であるが、事業分野によっては当局が追加の最低資本金額を設定しているケースがある。公開会社はより高額の資本金要件を課される。
また、外国人株主が資本金を送金する際には、送金証明書の取得や外貨規制への対応が求められる。
登記手続き
法人登記はナイジェリア企業局(Corporate Affairs Commission)を通じて行う。
大まかな流れは以下のとおりである。
- 会社名の事前予約
- 定款(Memorandum and Articles of Association)や取締役情報の提出
- 登録手数料の支払い
- 登録証明書(Certificate of Incorporation)の発行
登記完了後は、連邦内国歳入庁(Federal Inland Revenue Service)で納税者番号(Tax Identification Number)を取得する。銀行口座開設や各種ライセンス取得の際にも TIN が必要となる。
設立までに要する期間は書類準備が整っていれば 2〜4 週間程度だが、提出書類の不備などにより延長する場合がある。
3. 税制度
法人税
ナイジェリアの法人税(Company Income Tax)は標準税率が 30% である。石油・ガス関連企業については石油利益税(Petroleum Profits Tax)が課され、税率が高く設定されている。
年度決算後 6 か月以内に確定申告を行い納付する必要がある。中間納付制度があり、通年での分割納付が求められる場合もある。
売上規模の小さい法人には一部軽減税率が適用される制度も存在する。
付加価値税(VAT)
付加価値税の標準税率は 7.5% である。
国内取引全般に広く課税され、サービス提供も課税対象となる。一定の食料品や医薬品などは非課税扱いまたは軽減措置が認められる。
課税事業者は毎月の申告・納付が義務付けられており、申告内容の正確性が監査で確認される場合がある。
個人所得税
個人所得税は累進課税で最高税率は 24% 前後である。
外国人駐在員もナイジェリア国内源泉所得については課税対象となる。
一般的に給与支給時に源泉徴収が行われ、雇用主が取りまとめて納付する(Pay-As-You-Earn 制度)。滞在日数や雇用契約の内容によっては、納税義務が発生しない場合もあるため、駐在開始時に確認が必要である。
その他の税金
関税や印紙税、資本利得税(Capital Gains Tax)などの間接税がある。
州政府や地方自治体レベルでも商業活動税や看板広告税などが課される場合があり、地域によって税率やルールが異なる。
税務当局による監査や調査が定期的に行われるため、記帳と申告を厳密に行い、根拠資料を保管しておくことが重要である。
4. 会計・監査制度
会計基準
ナイジェリアでは国際財務報告基準(IFRS)の導入が進み、公開会社や大企業に対しては完全適用が義務付けられている。
中小企業については IFRS for SMEs を適用可能とする制度が整備されているが、外資系企業の多くは国際的な整合性を重視してフル IFRS を採用している。
監査要件
すべての有限責任会社は公認会計士(Chartered Accountant)の監査を受けなければならない。監査法人はナイジェリア会計士協会(Institute of Chartered Accountants of Nigeria)やナイジェリア国家会計士協会(Association of National Accountants of Nigeria)に登録されたメンバーが運営する事務所でなければならない。
上場企業や大企業は、金融報告評議会(Financial Reporting Council of Nigeria)のガイドラインに従い、より詳細な監査報告書を求められる。また、内部統制やリスク管理体制が整備されているかも評価の対象となる。
登録要件
監査法人や会計事務所の選任は株主総会の決議事項である。初回監査時には監査人の選任を正式に決議し、その後継続的に任命する場合も毎年再任手続きが必要となる。交代の際には適切な引継ぎや通知が義務付けられており、監査の中立性・独立性を確保する仕組みが整えられている。
財務諸表の提出
法人は事業年度終了後一定期間内(一般的には 6 か月程度)に財務諸表を作成し、企業局(Corporate Affairs Commission)へ提出する。提出書類には監査報告書や取締役報告書、株主総会議事録などが含まれる。公的申告に際しては英語での作成が求められる。
また、納税の観点では連邦内国歳入庁(FIRS)への法人税申告が必要であり、監査後の財務諸表が申告計算の基礎となる。監査で修正が生じた場合は、財務諸表と税務申告の整合性を確保しなければならない。
企業規模や業種、上場の有無により詳細な開示が追加で求められる場合がある。
5. 労務制度
雇用契約
書面による雇用契約を締結することが原則である。契約には職務内容、就業場所、報酬、労働時間、試用期間などを明記する。試用期間は通常 3〜6 か月程度で設定される場合が多い。外国人駐在員を雇用する場合は、就労許可条件に合致した契約内容とする必要がある。
最低賃金
2024 年時点の全国最低賃金は月額 30,000 NGN である。高いインフレ率や地域差を踏まえ、都市部や特定の業種では上乗せ交渉が一般的である。また、大手企業や外資企業では最低賃金を大きく上回る設定とする傾向がある。
労働時間
一般的な週労働時間は 40〜48 時間である。時間外労働に対しては割増賃金を支払うことが義務付けられている。労働法上、過度な残業を強要することは禁じられており、安全衛生面での配慮も求められる。
解雇・退職
解雇するには正当な理由を示すことが必要であり、事前通知(通常 1〜3 か月)や解雇手当の支払いが義務付けられる場合がある。労働組合が強い業種では、団体交渉や組合規約による解雇手続きが厳格化される。定年退職年齢は公的セクターを中心に 60 歳前後とされるが、民間企業は契約により自由に設定可能である。
労働争議・労使関係
労使間に紛争が生じた場合、労働省や調停機関が介入し、話し合いによる解決を促す。
ストライキは合法とされるが、公共の安全や公共サービスに重大な影響を与える分野(公共交通、電力など)では制限がある。
労働組合は産業別や企業別に組織されており、賃金・労働条件の集団交渉を行う。
社会保険制度
公的年金制度(Contributory Pension Scheme)は、企業・従業員双方が一定割合(企業が 10%、従業員が 8% など)を拠出する仕組みとなっている。
企業規模や業種により、健康保険や労災保険への加入が義務付けられる場合がある。
企業は、法令で定められた期間内に適切な届出と拠出を行わなければならない。
休暇制度
有給休暇は労働法で最低日数が定められており、1 年間の継続勤務につき 6 日以上が原則とされる。ただし外資系企業や大手企業では自社規定を定め、より長い休暇を付与するケースが多い。
産休・育児休暇についても労働法に規定があり、女性労働者には一定期間の有給産休が認められる。
6. 外国人進出企業向け制度
特別経済区と投資優遇
一部の自由貿易区(Free Trade Zone)では、法人税や関税の減免措置、輸出入手続きの簡素化などが適用される。また、加工貿易を促進するためのインフラ(工業団地、電力供給など)も整備されている。
投資促進機関
ナイジェリア投資促進委員会(NIPC)は、外国投資家に対して投資情報の提供、各種許認可の手続き支援を行う。投資規模や業種に応じて、税制上の特典やインセンティブを受けられる場合がある。主要官庁との連携窓口としても機能し、事業拡大に際する追加登録やライセンス取得のサポートを提供する。
ビザ・労働許可
外国人がナイジェリアで就労するには、事前に企業が移民局へ労働許可の申請を行う必要がある。経営幹部や専門職が対象となる「Subject to Regularization (STR) ビザ」や、短期プロジェクト向けの「Temporary Work Permit (TWP)」など、滞在目的に応じてビザ種別が異なる。許可期間満了前に更新手続きを行わなければならない。
外貨規制
中央銀行が為替管理を行っており、正規の手続きを踏めば配当送金や投資元本の回収は原則自由である。
外国人投資家は資本輸入証明書(Certificate of Capital Importation)の取得を通じて、事業で得た利益や資金を本国へ送金できる。ただし、為替不足や規制強化による送金遅延が発生する場合があるため、十分な外貨準備と計画的なキャッシュマネジメントが重要である。
その他投資優遇策
投資促進委員会や産業貿易投資省が指定する重点産業(農業、ICT、製造業など)に対しては、一定期間の法人税免除(Pioneer Status)などの特典が与えられる制度がある。
適用を受けるためには詳細な事業計画書の提出や現地雇用の創出が必須であり、承認プロセスには時間を要する。
7. 金融・資金調達制度
銀行口座開設手続き
法人設立後に商業銀行で口座を開設する場合、登記証明書、定款、納税者番号(TIN)、取締役の身分証明書などの書類が必要である。銀行によっては現地取締役の面談が必須となる。審査期間は通常数週間だが、提出資料に不備がある場合はさらに時間を要する。
現地借入・金利水準
ナイジェリアの金融機関は貸出金利が比較的高く、年率 10〜20% 程度が一般的である。信用リスクや担保状況に応じて金利は変動し、借入の際には土地・建物など不動産担保や社債発行による補完が求められる場合がある。
送金・為替サービス
大手銀行では外国送金や為替予約サービスを提供しており、事前に資金繰り計画を立てることで為替変動リスクを軽減できる。ただし、外貨不足の影響で送金が遅延するリスクがあり、企業は複数の金融機関を利用しながら流動性を確保する必要がある。
フィンテック動向
モバイル決済やオンライン融資サービスが都市部を中心に急速に普及しており、国内外の投資家がこの分野に注目している。電子ウォレットや QR コード決済などのサービスを提供するスタートアップ企業が増加し、銀行を介さない資金決済手段が拡大している。
資金調達の多様化
ナイジェリア証券取引所(NGX)への上場や社債発行など、公的マーケットを利用した調達手段が存在する。特に大規模プロジェクトやインフラ事業では、国際機関や開発銀行からの融資や保証枠を活用する例がある。
中小企業向けにはマイクロファイナンス銀行などが少額資金を提供しており、起業支援策として活用されている。
8. 文化・商習慣・その他リスク
汚職・賄賂リスク
汚職は依然として深刻な課題であり、一部の公的機関や業務過程で賄賂要求が生じるリスクがある。現地法令と企業コンプライアンス規定を順守し、違法行為を避けるための対策が必要である。
治安・政情リスク
地域によって治安状況が異なる。特に北東部では過激派によるテロ活動が懸念される。政情は比較的安定しているが、定期的に発生する民族や宗教対立に注意が必要である。
9. 実務上のポイント・進出のしやすさ
競争優位性・課題
豊富な人口を背景に消費市場は拡大しつつあるが、インフラ整備の遅れや電力事情の不安定さが課題となる。ICT や農業関連技術など日本企業の強みを活かせる分野も多い。
手続き難易度
企業登録や税務手続きは電子化が進展しているが、実務上は提出書類や監査要件が多く、担当官との交渉に時間を要する場合がある。