南アフリカ共和国の法人・会計監査・税労務等の基本情報

1. 国家基本情報

首都

  • 行政首都:プレトリア
  • 立法首都:ケープタウン
  • 司法首都:ブルームフォンテーン

人口

約6,200万人(2022年国勢調査)

公用語

公用語は英語を含む11言語。

通貨

南アフリカ・ランド(ZAR)

為替レートは1 USD=約18.5 ZAR(2025/05 月平均)

主要経済指標

GDPは約3,807億ドル(2023年)とサブサハラ・アフリカで第2位の規模を誇る。2023年の実質GDP成長率は0.6%と低迷し、インフレ率は6.0%(2023年平均)、失業率は約32%(2023年)と経済課題が大きい。

一方、輸出額は1,247億ドル、輸入額は1,234億ドル(共に2023年)で、主要輸出品は白金族金属・金・鉄鉱石・石炭・自動車など。

日本との関係では、南アフリカは日本企業のアフリカ最大の進出先であり、2023年時点で日系企業拠点数はアフリカ最多。日本は南アフリカの主要貿易相手国の一つで(南アの対日輸出品目は自動車等、対日輸入品目は白金族金属等)、経済協力や投資も活発である。

2. 法人設立制度

法人形態

南アフリカで事業を行うには、現地法人の設立または支店(外部会社)の登記が必要である。

現地法人の形態は主に公開会社(Ltd)と非公開会社(Pty Ltd)があり、一般的に日系企業は非公開会社形態を選択する。非公開会社は取締役1名から設立可能で株式譲渡に制限がある。公開会社は取締役3名以上が必要で株式を公開募集でき、証券取引所への上場も想定される。

外国企業が南アフリカで継続的事業を行う場合、現地法人化せずに支店(External Company)として登記する選択肢もある。

外資規制:

外資に対する包括的な持株規制はなく、南アフリカでは原則100%外資出資の法人設立が認められる。もっとも、産出資源への戦略や国益に絡む特定分野(例:鉱業権や農地保有など)では外国資本比率の制限や許認可条件が存在する場合がある。

また、黒人経済権限強化(B-BBEE)政策により、実質的な外資規制ではないものの、企業に黒人株主や従業員の登用を促す枠組みがあり、公共調達や特定産業ではB-BBEEで高評価の企業が優遇される。

資本金要件:

会社設立時の最低資本金の規制はなく、1ランドからでも法人を設立できる。出資金についても規制上の下限は定められていないが、事業規模に見合った適切な資本構成とすることが求められる。

なお、公開会社として株式上場する場合は取引所規則に基づく一定の資本要件や株主数要件を満たす必要がある。

登記手続き:

法人の設立登記は企業知的財産委員会(CIPC)で行う。まず会社名の予約申請を行い、定款(Memorandum of Incorporation)など所定書類を提出する。オンライン申請も可能で、登記完了までの所要期間は数日~数週間程度である。

登記完了後は南アフリカ歳入庁(SARS)への税務登録(法人税・VAT・給与税/PAYE等)や労働省へのUIF(失業保険基金)登録を行い、事業開始に必要な諸手続きを完了させる必要がある。また、事業分野によっては追加の営業許可や業種別ライセンスの取得が求められる。

3. 税制度

南アフリカの税務は南アフリカ歳入庁(SARS)が管轄し、主要な税目として法人所得税、付加価値税(VAT)、個人所得税などがある。以下に企業活動に関連する主な税制度を示す。

法人所得税(Corporate Income Tax):

税率は基本27%で、南アフリカ源泉の課税所得に対して課される(2023年3月以降開始事業年度より28%から27%へ引下げ)。内国・外国資本を問わず現地で事業を行う法人は原則として全所得にこの税率が適用される。

ただし、中小企業向けに税率軽減措置があり、年間売上高が2,000万ランド以下の小規模法人は課税所得に応じて0~27%の累進税率、それよりさらに小規模な零細企業(売上100万ランド以下)は一定額まで免税や低率課税(最大3%)が適用される特例がある。

なお、外国企業の南ア支店(外国会社)が本国へ利益送金する場合、追加の支店税はなく通常の法人税のみである。

源泉税(Withholding Tax):

南アフリカから非居住者へ支払われる所得には源泉徴収課税が行われる。配当金には20%の源泉税(Dividend Tax)が課され、利子およびロイヤルティには各15%の源泉税が課せられる。

南アフリカと日本の間には租税条約が締結されており、例えば日本の親会社が25%以上出資する子会社からの配当に対する源泉税は5%に軽減されるなど、一定の軽減措置が適用可能。

なお、サービス料等には基本的に源泉税はないが、建設工事など一部取引に対して例外的に課税が行われる場合がある。

付加価値税(VAT):

日本の消費税に相当する間接税で、標準税率は15%(2018年に14%より引上げ)。国内で供給されるほとんどの財貨・サービスに課税され、輸出取引や一部基本食品にはゼロ税率(0%)、金融・教育・住宅賃貸等特定分野は非課税となっている。

年間売上高が100万ZAR(ランド)超の事業者はVAT登録が法定義務となり、課税事業者(ベンダー)として定期的にVAT申告・納付を行う(月次または2ヶ月毎が一般的)。売上高5万ZAR超から任意登録も可能で、仕入VAT控除を受けるため小規模事業者でも任意登録を選択することがある。

個人所得税(Personal Income Tax):

個人の所得に対して累進課税が適用され、2023年度現在の税率は18%~45%である(最高税率45%は年間課税所得1,817,000 ZAR超部分に適用)。給与所得者の場合、雇用者が毎月PAYE(Pay-As-You-Earn)として源泉徴収し納税する仕組みになっている。

南アフリカ居住者は世界所得が課税対象となるが、一定の海外所得は非課税枠が設けられている。一方、非居住者は南アフリカ国内源泉の所得のみ課税対象となる。

給与所得に対しては雇用主・労働者双方から給与の1%ずつ失業保険拠出金(UIF)が徴収されるほか、雇用主は従業員訓練税(SDL)として給与総額の1%を別途納付する。社会保険料はそれらに限定的で、日本のような厚生年金保険は存在しない。

その他の税金:

上記のほか、南アフリカには資本的所得に対する課税としてキャピタルゲイン税(資本利得税)がある(法人の場合、資産譲渡益の80%を法人所得に加算し実質約21.6%の税率に相当)。

不動産を取得した際には物件価額に応じた移転税(Transfer Duty)が課され、一定額以下の住宅用不動産取引を除き累進税率(最大13%)が適用される。

また、鉱業権や天然資源の採掘にはロイヤルティ(Mining Royalty)が課される。

二酸化炭素排出量に応じたカーボン税も導入されており(2019年施行)、環境対策として排出企業に追加負担が生じる場合がある。

税制は頻繁に改正が行われるため、最新の税率や優遇措置については毎年度の予算発表を確認する必要がある。

4. 会計・監査制度

南アフリカの企業会計は国際水準に準拠しており、財務報告や監査に関する制度も整備されている。企業は適用区分に応じて国際会計基準を採用し、一定規模以上の場合は外部監査が義務付けられる。

会計基準:

南アフリカでは上場企業および大多数の非上場企業に国際財務報告基準(IFRS)が適用されている。

非公開会社など中小規模の企業については、IFRSを簡素化した「IFRS for SMEs(中小企業向け会計基準)」の適用が認められており、企業規模や利害関係者の状況に応じた会計処理が行われる。

いずれの場合も会計帳簿の調整・保存義務があり、年度ごとに財務諸表を作成することが法律で求められる。決算期は各社任意に設定可能だが、多くは12月末や3月末を年度末に採用している。

監査要件:

会社法により、全ての公開会社と一定規模以上の非公開会社には財務諸表の外部監査が義務付けられる。

監査要否はPublic Interest Score(PIS)と呼ばれる指標で判定され、PISは従業員数・売上高・負債・株主構成から算出される点数である。一般に、PISが350点を超える企業は強制監査の対象となり、PISが100~350点の場合も、財務諸表を社内で作成している場合には法定監査が必要となる。それ以外の中小企業でも、定款(MOI)や契約上の要請、自主的な選択により監査を受けるケースがある。

法定監査の対象とならない企業は、独立審査(Independent Review)と呼ばれる外部者による財務諸表レビューを受ける義務がある。ただし、株主=役員の同族会社でかつ年次財務諸表を社外の会計士に委託して作成している場合などは、監査・独立審査とも法定義務から除外される緩和措置も存在する。

なお、南アフリカにおける外国会社(支店)は原則として現地法上の監査・独立審査義務の対象外である。

登録要件:

監査業務を実施できるのは南アフリカ公認会計士(Chartered Accountant (SA))であり、かつ監査人登録機関(IRBA)に登録した監査人のみである。監査報告書には登録監査人の署名が必要となる。

独立審査を行うレビュー担当者も公認会計士など有資格者であることが求められる。

会計士・監査人の職業倫理は厳格に定められており、不正防止の内部統制やコンプライアンス体制の整備も企業の責務となっている。

財務諸表の提出:

全ての企業は会計年度末後、遅滞なく株主総会(年次総会)で財務諸表の承認を行い、所管官庁の要求に応じて提出できるようにしておく必要がある。特に公開会社や一定規模以上の企業は、CIPC(会社委員会)への年次報告として財務諸表を提出する義務がある。

上場企業は証券取引所規則により監査済み決算の適時開示も求められる。

これらに違反した場合、罰金や登記抹消等の制裁を受ける可能性があるため、適正かつタイムリーな財務報告が重要である。

5. 労務制度

南アフリカの労働法制は労働基準や雇用平等、労使関係に関する包括的な枠組みを提供しており、企業はこれらを遵守して人事労務管理を行う必要がある。主な事項として雇用契約、賃金、労働時間、解雇手続、労使関係などが法律で定められている。

雇用契約:

基本的就業条件は労働基準法(Basic Conditions of Employment Act)で規定されており、契約書には職務内容、給与、勤務時間、休暇、解雇通知期間などを明記する。契約形態は期間の定めのない常用雇用が原則で、有期契約はプロジェクトや代替要員など合理的理由がある場合に限られる。試用期間は3~6か月程度設けられることが多い。就業規則やハンドブックを整備し、企業内の勤怠・懲戒手続きを明文化しておくことも望ましい。

最低賃金:

南アフリカには全国一律の法定最低賃金が設定されている。2024年3月の改定後、最低賃金は時間額27.58 ZAR(ランド)となっており、フルタイム(週45時間)換算で月額約4,800ランド程度に相当する。農業や家事労働者等一部職種には別途最低賃金が規定されているが、一般企業で雇用する労働者には原則この全国最低賃金以上の賃金支払いが義務付けられる。

最低賃金は毎年見直されており、インフレ率等を考慮して政府が改定を行う。違反した企業には罰則が科される。

労働時間:

通常の法定労働時間は週45時間(1日あたり9時間〈週5日勤務の場合〉または8時間〈週6日勤務の場合〉)である。これを超える勤務は時間外労働(残業)となり、労使合意により週10時間を上限に認められる。時間外労働に対しては通常賃金の1.5倍以上の割増賃金を支払う義務がある(休日勤務は1.5倍、法定休日勤務は2倍の割増率が一般的)。

有給休暇は最低でも年15営業日(3週間)の取得が法律で保障されており、勤続12か月ごとに発生する。また病気休暇は3年間で30労働日分の権利が与えられ、出産休暇(4か月間の無給産休)や家族責任休暇(年間3~5日)も定められている。

これらの最低基準を下回る就業条件は無効となる。

解雇・退職:

労働関係法(Labour Relations Act)により、従業員の解雇には公正な理由(業務上の不適格・規律違反、能力不足、経営上の都合など)と公正な手続きが求められる。不当解雇と判断された場合、従業員は調停仲裁機関(CCMA)や労働裁判所に提訴し、復職命令や補償金支払いが命じられる可能性がある。解雇時の通知期間は勤務年数に応じて1~4週間以上必要である(試用期間中を除く)。

経営悪化等による整理解雇(経済的理由の解雇)の場合、30日前通知に加え、勤続1年当たり最低1週間分の法定退職手当(Severance Pay)を支払う義務がある。

定年年齢に関する法律上の規定はない。

労働争議・労使関係:

南アフリカの労働組合組織率は比較的高く、特に鉱業、製造業、公共交通などでは強力な全国単一労組が存在する。労使紛争が生じた場合、まずCCMA(労働争議調停・仲裁委員会)での調停を経て、解決しない場合に合法的なストライキまたはロックアウトに発展することがある。

ストライキは手続遵守の下で認められた権利であり、毎年労働者による大規模なストが発生している(賃上げ争議が中心)。企業は団体交渉協定に基づき年1回程度の賃金改定交渉を行うケースが多く、労使関係の安定には労組との建設的な対話が重要である。

また、雇用平等法(Employment Equity Act)により、従業員50名超の企業等には黒人や女性など被差別層の積極登用を図る雇用平等計画の策定・報告義務が課されている。これはB-BBEE政策の一環でもあり、人種・性別の多様性確保が企業の社会的責務と位置付けられている。違反時には罰金等もあり、人事制度上も留意が必要である。

6. 外国人進出企業向け制度

南アフリカ政府は海外からの投資を促進するため、企業進出を支援する各種制度や優遇策を用意している。特別経済区でのインセンティブや投資促進機関のサポート、外国人の就労ビザ制度、外為規制の枠組みが主なポイントである。

特別経済区と投資優遇:

政府は国内数箇所を特別経済区(SEZ: Special Economic Zone)に指定し、新規投資に対して税制優遇やインフラ提供などのインセンティブを与えている。例えば、一部SEZでは法人税率の優遇(15%への引下げ)や設備投資減税、関税の免除措置などが適用される。

また、製造業や農業、観光業など特定産業向けにも、補助金や融資制度、減税措置といった支援策が講じられている。

これらの制度を活用することで、外国企業は初期投資コストの低減や操業環境の改善が期待できる。ただし、優遇措置の適用には事前認可や実績報告など所定の要件を満たす必要がある。

投資促進機関:

南アフリカ政府は「南アフリカ投資促進機構(InvestSA)」を設置し、外国企業の現地進出をワンストップで支援している。InvestSAでは投資案件の相談対応、必要許認可取得手続の調整、関係当局との調整や現地ビジネスパートナー紹介などのサービスを提供している。

また、各州にも投資開発公社(例えばハウテン州のGEDAや西ケープ州のWesgro等)があり、地域ごとの投資情報提供や誘致活動を行っている。これら公的機関を通じて、進出企業は行政手続の円滑化や各種情報提供などの支援を受けることが可能である。

ビザ・労働許可:

一般就労ビザ(General Work Visa)

2024年10月の改正によって、一般就労ビザには新たにポイント制が導入された。下記のような項目を数値化し、一定の合計ポイントを満たす必要がある。

  • 学歴・専門資格
  • 実務経験年数
  • 年収(給与水準)
  • 南アフリカ人従業員への技能移転計画の有無
  • 雇用契約期間

高い給与水準や特定分野の先端スキルを有する応募者にはポイントが加算されるため、条件を満たせば比較的短期間で承認が得られる可能性もある。一般就労ビザの滞在可能期間は原則5年である。

高度技能ビザ(Critical Skills Work Visa)

南アフリカ政府の定める欠乏技能リスト(Critical Skills List)に合致する職種で、必要学歴・実務経験を有する外国人が対象となる。2024年10月改正でリスト内容が見直され、一部のIT・医療・エンジニアリング分野が追加された。改正後は、雇用先未定での申請は不可とされ、南アフリカ国内企業との雇用契約が申請時点で必須となる。ビザの有効期間は最大5年で、更新も可能である。

社内転勤ビザ(Intra-company Transfer Visa)

海外本社から南アフリカ法人へ出向・転勤する駐在員向けのビザである。2024年10月改正で、最長滞在期間が4年から5年に延長された。延長を申請する場合、当初の転勤期間中に現地スタッフへの技能移転を適切に実施した実績を証明する必要がある。グループ会社間の異動であれば比較的取得しやすいが、雇用契約企業が明確に親子関係にあることが前提条件となる。

リモートワークビザ(Remote Work Visa)

同改正で新設されたビザ区分で、南アフリカ国内に居住しつつ、海外の雇用主やクライアント向けにリモート就労する外国人が対象である。滞在可能期間は1年が基本だが、一定要件を満たせば最長2年まで延長可能となる。ただし、このビザでは南アフリカ国内企業との雇用契約や対価受領は認められない。申請には、海外との就業契約や十分な収入証明、居住先情報などを提出する。

その他の留意点

いずれのビザも南アフリカ大使館・領事館での事前申請が必要で、審査には数か月を要する場合がある。短期の商用訪問(90日以内)に関しては、日本を含む一部国の国民がビザ免除の対象となるが、会議や商談などに限定され、現地企業での就労は認められない。
改正内容は今後も追加的に見直しが行われる可能性があるため、最新の要件やポイント制の基準を常に確認し、十分な準備期間を確保して申請する必要がある。

外貨規制:

南アフリカ準備銀行(中央銀行, SARB)はAuthorized Dealerと呼ばれる市中銀行を通じて資金の流出入を統制しており、外国企業が利益送金や資本撤収を行う際には所定の報告・承認手続きが必要となる。

具体的には、現地法人が本国親会社へ配当金やロイヤルティ送金を行う場合、SARB指定の銀行にて利益計上や納税が適切に行われたことの証明を提出し、送金承認(Tax Clearance)を取得する必要がある。

また、親会社から現地法人への増資や社内貸付についても事前にSARBへの届け出を行い、後日の資本送還時に備えておくことが求められる。

外為規制下ではランド建て通貨の持ち出し制限などもあるが、近年は段階的な規制緩和が進められており、合法的な投資収益の本国送金は概ね保証されている。

もっとも、通貨危機時等には規制強化のリスクも考慮し、資金計画には余裕を持たせることが望ましい。

7. 金融・資金調達制度

南アフリカの金融システムはアフリカで最も発達しており、銀行取引や資金調達の環境は比較的整っている。もっとも、金利水準は日本に比べ高く、為替変動リスクも大きいため、資金計画において留意が必要である。

以下、金融実務上の主要ポイントを解説する。

銀行口座開設:

現地で法人活動を行うには南ア国内の銀行で口座を開設する必要がある。南アフリカの主要銀行(スタンダード銀行、ファーストランド銀行、ABSA銀行、ネッドバンク等)は世界的に信用力が高く、都市部に支店網を持つ。小切手文化は縮小傾向にあり、振込(EFT)やモバイル決済が主流である。

口座開設時には会社登記証明書(MoIやCIPC発行の証書)、役員・口座署名者の身分証明(パスポート)および居住住所証明、税番号(SARS発行の納税者番号)などの提出が求められる。これはFICA(金融情報センター法)に基づく厳格な顧客確認手続き(KYC)であり、マネーロンダリング防止の観点から必須である。口座開設プロセス自体は数日~数週間で完了し、インターネットバンキングや各種決済サービスの利用が可能となる。

現地借入・金利:

南アフリカの金融市場は発達しており、海外企業でも与信条件を満たせば現地金融機関からの借入が可能である。もっとも政策金利(レポレート)は直近で7.50%(2025/05時点)と高く、市中銀行の最優遇貸出金利(プライムレート)は約11%前後と金利負担は大きい。企業向け融資では不動産・在庫など資産担保や親会社保証が求められる場合が多い。

設備投資案件では開発金融機関(産業開発公社IDCなど)や政府系の低利融資制度を利用できる可能性もある。近年は金利高騰を背景に社債発行や本国からの社内融資で賄う企業もみられるが、本国からの貸付金は外貨規制上SARB承認を要し、利子支払いにも15%の源泉税が課される点に留意が必要である。

送金・為替:

南アフリカ・ランド(ZAR)は変動相場制で取引されており、対主要通貨で変動が大きい。

2010年代以降、ランドは資源価格や国際金融情勢の影響を受けやすく、対米ドル相場は10年で約2倍に下落するなど乱高下を経験している。為替リスク管理のため、現地銀行はフォワード為替やデリバティブ商品によるヘッジ手段を提供しており、輸出入取引の決済時期に合わせてレートを固定する企業も多い。

国外への送金は前述のとおり中央銀行管理下で可能であり、適切な手続を踏めば配当・ライセンス料・債務返済等を本国送金できる。資金移動にはSWIFTを利用した国際送金が一般的で、送金所要日は日本宛で2~5営業日程度である。外貨規制により一度に持ち出せる額など制約はあるものの、事業運転上通常必要となる範囲で大きな障害はない。

為替手数料や送金コストは日本より割高な場合が多く、契約通貨や支払条件の設定にも工夫が求められる。

フィンテックの活用:

南アフリカでは銀行サービスの電子化が進んでおり、法人・個人ともにインターネットバンキングやモバイル送金が広く普及している。

主要銀行のスマートフォンアプリで口座残高確認から振込、支払まで完結可能で、企業も給与振込や仕入支払をオンラインで効率的に行っている。

近年はフィンテック企業の台頭も著しく、電子ウォレットやQRコード決済(例:SnapScanなど)、ECプラットフォーム向け決済代行サービスなど新しい金融サービスが登場している。

暗号資産やブロックチェーンを用いた送金も試験的に行われ始めている。

金融当局も革新的サービスに理解を示し、規制サンドボックスを通じてフィンテック育成を図っている。

総じて南アフリカの金融制度は信頼性が高く、最新テクノロジーも取り入れながら進化している。

8. 文化・商習慣・その他リスク

南アフリカでビジネスを行うにあたっては、現地独特の商習慣や潜在的リスクへの理解が欠かせない。契約交渉のスタイルや倫理観、治安情勢など、日本とは異なる側面を事前に把握し適切に対応することが重要である。

契約文化:

南アフリカのビジネスは基本的に英米法の流れを汲む商習慣にあり、契約の成立・履行には書面(契約書)の取り交わしと当事者間の合意内容の明確化が重視される。口約束や暗黙の了解に依存することは少なく、契約書には取引条件・納期・支払条件・責任分担・紛争解決条項(調停や仲裁の合意事項)まで詳細に規定されるのが一般的である。

汚職リスク:

国有企業を巡るいわゆる「国家の私物化(State Capture)」問題など腐敗スキャンダルが過去に大きく報じられ、企業が官公庁と取引する際には不透明な要求に直面する可能性が指摘されている。国際NGOの透明性国際による腐敗認識指数(CPI)では南アフリカは41(100点満点中、2023年)となっており、主要先進国と比べスコアは低い。

治安・政情:

南アフリカは政権交代も安定した民主主義国家である一方、治安面では凶悪犯罪の多発する国でもある。特にヨハネスブルクやプレトリア等の都市部では強盗、車の窃盗、侵入盗、誘拐といった犯罪が日常的に発生し、邦人を含む外国人も被害に遭うケースが報告されている。企業としてはオフィスや工場にセキュリティシステムや警備員を配置し、従業員の通勤にも安全対策を講じる必要がある。夜間の徒歩や治安の悪い地域への立ち入りは避け、自動車移動時もドアロックや停車時の警戒を怠らないことが肝要である。

政治情勢については、長年与党ANC(アフリカ民族会議)による政権運営が続き大規模な政治混乱は起きていないものの、近年は経済低迷や汚職問題から政権への批判が高まっている。2024年の総選挙ではANCの得票率が過半数割れし、今後の連立政権誕生や政策の不透明感が指摘される。

加えて、国家電力会社Eskomの経営難に起因する電力不足は深刻で、2018年頃より全国規模で計画停電(ロードシェディング)が常態化している。電力制約は工場稼働や店舗営業に直接影響し、治安悪化や追加コスト(自家発電機やUPS設置等)を招く大きなリスクとなっている。

パートナー選定上の留意点:

日系企業が現地企業や代理店と提携する際には、慎重な相手先選定と契約上の担保が重要となる。進出初期には現地事情に通じたローカルパートナーの協力が有益だが、相手先の信用度や実績、人脈に過度に依存しすぎないよう注意すべきである。提携前にデューデリジェンス(財務内容や評判の調査)を実施し、契約書で権利義務や知的財産の扱い、損害賠償条項などを明確化することで、後のトラブルを防止できる。

また、B-BBEE政策の下では黒人株主持分や現地経営参画が企業評価に影響するため、官民問わずビジネスを円滑に進める上で信頼できる黒人パートナーとの提携は大きなメリットとなり得る。

ローカル企業の中には政界との太いコネを売りにするケースもあるが、腐敗リスクを伴う提案には毅然と対応する必要がある。

9. 実務ポイント・進出のしやすさ

日系企業の進出事例:

南アフリカにはトヨタ自動車や日産自動車をはじめ、日本の製造業・商社・金融機関など多種多様な企業が進出している。トヨタはダーバン近郊の工場で乗用車を生産し、現地市場だけでなく欧州や日本向けにも輸出する成功事例として知られる。また建設機械のコマツは現地法人を設け鉱山向け重機販売・サービスで大きなシェアを有している。商社各社も資源・インフラプロジェクトに参画し、みずほ銀行や三菱UFJ銀行などメガバンクもヨハネスブルクに拠点を置く。

2023年時点で日系企業拠点数はアフリカ最多であり、業種も製造業から卸売・物流、サービスまで幅広い。現地法人の業績も概ね好調で、JETROの調査によれば在南ア日系企業の実に8割以上が2024年の業績見通しを「黒字」と回答している。このように多数の先行企業が培った知見やネットワークがあるため、新規進出企業にとって心強い土壌が整っているといえる。

南ア市場の魅力と課題:

南アフリカは豊富な鉱物資源と工業基盤、購買力のある中間層人口を抱え、アフリカでは突出した経済規模を持つ。有力企業の本社が集積するヨハネスブルクは“アフリカの経済首都”とも称され、南部アフリカ開発共同体(SADC)加盟国へのゲートウェイとしての地位を占める。

インフラ面では港湾・空港や幹線道路、通信網が比較的整い、サプライチェーンの構築もしやすい。また、ビジネス上の使用言語が英語であり法制度も整然としていることから、外国企業にとって事業展開しやすい市場環境が整っている。

一方で課題も存在し、近年は経済成長の鈍化や慢性的な電力不足、高失業率に伴う治安不安などが投資マインドの阻害要因となっている。

また、国内市場規模(GDP約3,800億ドル)は先進国に比べれば限定的であり、高級耐久消費財など一部を除き購買力は中所得国水準に留まる。

アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)発効により域内市場の一体化が進む中、南アだけでなく周辺国も含めた広域展開戦略が求められる局面でもある。

総じて、南アフリカは 「アフリカ市場参入の足掛かり」 としての優位性を持ちながら、内在する経済・社会課題への対処も必要な市場といえる。

進出手続の難易度:

南アフリカのビジネス環境は法制度が整っており行政サービスも比較的充実しているため、途上国の中では進出手続は平易な部類に属する。会社設立登記はオンラインで完結可能、税務登録も電子申請が整備されている。ただし官公庁によっては処理に時間を要するケースもあり、例えば労働ビザの取得には数ヶ月単位の時間を見込む必要がある。

南ア政府はInvestSAによるワンストップショップを設けて手続簡素化を図っているので、進出準備段階から同機関に相談することで各種申請を効率化できる。またJETROや現地商工会議所などの支援機関からも手続情報を得られる。

全般として、進出のしやすさはアフリカ諸国の中でトップクラスではあるものの、日本や先進国に比べれば官僚手続は煩雑で、意思決定のスピード感も緩やかである。従って、余裕を持ったスケジュール計画と専門家のサポート活用が円滑な立ち上げのポイントとなる。