アンゴラ共和国の法人・会計監査・税労務等の基本情報

1. 国家基本情報

アンゴラ共和国(Republic of Angola、現地語: República de Angola)

ルアンダ(Luanda)– 最大の都市であり、人口約907.9万人(2022年、国家統計院)。主要都市には旧都のウイラ州サウルイモネ(Lubango)や港湾都市ロビト(Lobito)などがある。

約3,668万人(2023年、世界銀行)。人口は若く増加傾向にあり、都市部への集中が進んでいる。

ポルトガル語(旧宗主国ポルトガルの影響)。ビリンバ語やコンゴ語など複数の現地言語も使用されるが、ビジネスや行政はポルトガル語が支配的。

クワンザ(Kwanza, AOA)。2025年4月末時点の為替レートは1 AOA ≈ 0.16 JPY、1 AOA ≈ 0.020 ZAR(概算)であり、変動相場制の下で通貨価値は近年不安定。中央銀行はインフレ抑制のため高金利政策を実施しており、政策金利も二桁台に及ぶ。

経済は石油に大きく依存し、原油価格の影響を受ける。

2024年の名目GDPは約1,184億米ドル、一人当たりGDPは約3,000米ドル強。

2025年の実質GDP成長率は+2.4%(予測)と緩やかな成長が見込まれ、消費者物価上昇率(インフレ率)は22.0%に達すると予測される。インフレ率は高位安定しており、中央銀行は通貨安と物価上昇に警戒を続けている。

主要産業は石油(輸出収入の約9割)およびダイヤモンドで、政府は農業・製造業振興による経済多角化を推進中。

2. 法人設立制度

アンゴラで一般的な法人形態は株式会社(Sociedade Anónima, S.A.)有限責任会社(Sociedade por Quotas, Lda.)である。

いずれも外国資本100%で設立可能で、外資企業に対する強制的な現地出資者の要求は2018年の新投資法以降原則撤廃された。

S.A.は株式による資本構成で株主数最低5名、Lda.は“クオータ”と呼ばれる持分による構成で出資者数2名以上とされる。

有限会社(Lda.)には法定の最低資本金規制はなく、出資者間の合意で任意に定められる。

株式会社(S.A.)は米ドル換算2万ドル相当の最低資本金が要求される。

資本金払込証明や公証を経て商業登記が完了するまでは営業開始できない。

会社設立は企業ワンストップ窓口(Guiché Único da Empresa, GUE)を通じて行う。

定款作成→公証人認証→商業登記簿への登録→納税者番号(NIF)取得→社会保障登録といった手続きをGUEが一括して支援する制度が整備されており、必要書類(定款、出資者身分証明、資本金払込証明など)を揃えれば数日~数週間で登記が完了する。

登記先機関は商業登記所(Conservatória do Registo Comercial)で、ルアンダではGUEでのオンライン登記も一部可能となっている。

かつては一定業種(石油・ダイヤモンド採掘、港湾など)で現地企業との合弁義務があったが、現在の民間投資法(2018年法10/18, 2021年法10/21改正)下では原則として外資100%事業が認められる。ただし、石油上流開発は依然として国営石油会社ソナンゴルとの協業が必須であるなど特別法による規制が残る分野もある。

また外資による不動産取得も可能だが、大口の土地取得には政府許可が必要になる場合がある。

取締役(Director)にアンゴラ国籍者や居住者を含める法定義務は存在しない。

取締役は外国人でもよいが、その場合労働(又は投資)ビザを取得し、商業登記簿に登録する必要がある。

少なくとも1名は現地における連絡責任者となることが望ましいとされ、現地代理人(弁護士や秘書役)の選任も推奨されている。

会社秘書役や法定代理人の設置義務はないが、S.A.の場合は監査役会(Conselho Fiscal)の設置が会社法上必要とされている。

全ての法人は商業登記後に税務登録を行い、年間の事業許可更新料や統計局への報告義務を負う。

また、商号は公序良俗に反しないポルトガル語表記である必要がある等の名称規制がある。

3. 税制度

アンゴラの法人所得税(Imposto Industrial)は標準税率25%である。銀行・保険・通信など特定セクターの所得には35%の引き上げ税率が適用される。

課税対象は世界所得(居住者法人の場合)。

課税年度は暦年で、年度終了後(12月末)から翌年5月末までに確定申告・納税を行う。

中小企業には簡易課税制度があり、売上一定以下(3.5億クワンザ未満)の企業は簡易帳簿で計算された所得に対し特別税率(6.5%等)で源泉徴収をもって納税を完結させることも可能である。

なお、石油・ガス開発事業には別途石油所得税(50%前後の高率)や生産分与契約が適用される。

2019年に導入された付加価値税(Imposto sobre o Valor Acrescentado, IVA)が国内売上および輸入に課される。

標準税率14%で、ほとんどの物品・サービスに適用。生活必需品(一部食品等)や農業資材には5%の軽減税率、ホテル・レストラン等や簡易課税対象事業者には7%の特別税率が適用される。輸出取引は零税率(0%)でVAT還付の対象。

申告は月次で行い、税務当局(AGT)へ電子申告・納付する。

導入当初は徴税インフラ未整備から猶予措置もあったが、現在は大企業を中心にVATシステムが定着している。

給与所得等に対して課される個人所得税(Imposto sobre os Rendimentos do Trabalho)は累進課税であり、最高税率は25%。給与は雇用主による源泉徴収が完結税となり、月給制従業員は確定申告不要。

自営業者は一定額について源泉徴収6.5%、その他部分に25%を適用する仕組み。

なお役員報酬等も給与所得とみなされ課税される。

社会保障負担控除等ごく一部の控除を除き、減税措置は限定的。

配当・利息・ロイヤルティ等の投資所得には一律10%の源泉課税(Imposto sobre a Aplicação de Capitais)があり、非居住者への支払いも10%である。

技術サービス料についても源泉徴収義務があり、国内・非居住者とも現在6.5%の税率(2022年引下げ)が適用され最終税となる。

これら源泉税は国外送金時に課される特別拠出税(以前は10%)と統合されており、外国企業に対するサービス費用支払いも所定の源泉徴収で完結する。

アンゴラにはこの他、印紙税(特定契約や公証行為に定額課税)、不動産移転税(譲渡価額の2%)、関税(最恵国税率0~50%の範囲)、消費税(ぜいたく品等に追加課税)などがある。

雇用に伴い社会保障拠出金(後述)も事業者負担が発生する。

地方税は未整備で、法人税・間接税はすべて国税となっている。

また、アンゴラは現時点で日本と租税条約を締結しておらず、二重課税回避は外国税額控除や法人税の益金不算入規定に依拠する(2024年現在、条約締結済は中国本土・ポルトガル・UAEのみ)。

税務当局は一般税務局(AGT: Administração Geral Tributária)で、財務省傘下に統合された組織が徴税を管轄する。

納税者番号(NIF)取得が法人・個人双方に義務付けられ、電子申告システム「ポルト(Portal do Contribuinte)」上で法人税・VAT申告が可能。

VATの還付申請も制度上可能だが、実務的には税務当局の審査に時間を要する傾向があり、繰越控除で調整する企業が多い。

税務調査は頻繁ではないが、油田関連や輸出入業者には抜き打ち検査が入ることもある。

罰則は延滞税・加算税の賦課や重過失時の刑事罰があり、企業は現地税理士・会計士の助言の下で適法な税務履行を求められる。

4. 会計・監査制度

アンゴラでは現在、一般企業向けに独自の会計基準(Angolan GAAP)が適用されている。

上場株式市場は未整備だが、銀行など金融機関には国際会計基準(IFRS)の適用が義務付けられている。中央銀行(BNA)の規定により、全銀行は2017年までにIFRSで財務諸表を作成することが定められ、実際に全商業銀行がIFRSベースで報告している。

それ以外の民間企業については、現在アンゴラ国内基準(2009年制定の会計基準計画PGC)による計算が行われており、IFRS for SMEsの導入は検討段階である。もっとも外資系企業の中には任意にIFRS基準で帳簿整備する例もあるが、税務申告上はアンゴラ基準へ調整する必要がある。

将来的には資本市場育成に合わせ、一般事業会社へのIFRS適用拡大も予想される。

会社法上、株式会社(S.A.)は監査役会または監査委員を置き監査を受ける義務がある。

他方、有限会社(Lda.)では法定監査の義務はないが、一定規模超のLda.(売上高や総資産の基準あり)は外部監査人を任意選任することが推奨されている。

金融機関や公開会社(将来の証券取引所上場企業)は外部監査が必須であり、監査報告書を金融当局へ提出する義務がある。

監査は国際監査基準(ISA)に準拠して行わる。

アンゴラで計算業務や監査業務を行う専門家はアンゴラ勅許会計士・監査士協会 (OCPCA) に登録する必要がある。

OCPCAは大統領令232/10により設立された公認団体で、必要資格は大学での会計・監査教育、実務経験、試験合格等と定められている。外国資格者がアンゴラで監査を行う場合、OCPCAへの一時登録や現地会計士との提携が必要となる。

会計年度末(12月31日)には翌年3月までに財務諸表を作成し、必要に応じて株主総会承認と監査人意見を得るフローとなる。

なお、アンゴラ政府は会計人材の育成を課題と認識しており、日本も含む海外からの技術協力を受けて会計士養成を進めている。

5. 労務制度

アンゴラの雇用関係は労働法(Lei Geral do Trabalho)によって包括的に規制される。契約形態は期間の定めのない常用契約が原則だが、プロジェクト期限付きの有期契約(最長5年、更新可)も認められる。

試用期間は職種により最大6か月まで設定可能。法定の最低賃金は月額32,181.15クワンザ(2023年)と定められているが、実際には職種別最低賃金(石油セクター等はより高額)やインフレ調整が行われるため都度確認が必要。

給与の現地通貨払いが原則で、外貨払いには中央銀行許可が必要となる。

原則として週44時間、日8時間が法定労働時間の上限である。時間外労働は1日2時間まで、週54時間(通常時間と合計)まで認められており、所定割増賃金(平日残業は50%増し、休日勤務は100%増し等)を支払う義務がある。

労働者には勤務時間内に1~2時間の休憩(食事休憩等)を与える必要があり、5時間連続勤務は認められない。

週休は通常日曜日(加えて土曜午後)で、少なくとも連続36時間の休息を保証しなければならない。

年次有給休暇は勤務12ヶ月につき連続22営業日(約1ヶ月)取得する権利がある。勤続5年ごとに休暇日数が増加する長期勤続休暇制度もある。

病気休暇は医師診断書により年間最大26週間の休業保証(賃金の一部は社会保障から給付)。

出産休暇は連続12週間(予定日4週前から取得開始)付与され、その間は給与全額が社会保障より支給される。復職後も子供が生後15ヶ月に達するまで1月1日の有給休暇(授乳休暇)が認められる。父親には法律上有給父親休暇1日が付与される。

祝祭日は独立記念日(11/11)等年間約14日が法律定休日と定められる。

賃金は月1回以上の支払いが必要で、遅延支払いには罰則が科される。

ボーナス支給は法定ではないが、慣行的に13ヶ月目給与(クリスマス手当)を支給する企業も存在する。

被用者は社会保障基金に加入し、拠出率は会社負担8%・本人負担3%である(給与天引き後に企業がまとめて納付)。社会保障は年金、疾病手当、失業手当などをカバーする。なお、労働者への住宅手当・通勤手当は一定額まで非課税所得として認められている。

アンゴラ労働法では解雇には正当な理由(Justa Causa)が必要とされる。労働者の重大な職務懈怠や背信行為などを除き、使用者側からの一方的解雇は制限される。経済上の理由による人員整理(客観的理由による解雇)の場合でも、所定の手続き(労働総局への通知・労組協議・30~60日前予告)が求められる。不当解雇と認定された場合、労働者は復職または補償金支払いの救済を受ける権利がある。

労働者からの自己都合退職の場合、勤続1年未満は15日、1年以上は30日の事前通知期間が必要。契約期間満了時の退職(有期契約満了)は所定の勤続補償金を支払う義務があり、一般に勤続年数に応じ1年当たり1ヶ月分程度の補償が支給される。

アンゴラ憲法は労働者の団結権を保障しており、組合の結成・加入は自由である。主要産業毎に労働組合が存在し、労使交渉による団体協約が締結されている場合もある(石油業界では強力な労組が賃上げ交渉を実施)。

ストライキ権も法律上認められているが、実際のスト実施には政府への通知や調停手続きが必要。労使紛争は労働裁判所や調停機関に付され、裁判は長期化する傾向がある(契約執行の司法手続きは世界でも最長水準)。

そのため、紛争未然防止のためにも日頃から労務管理を適切に行い、組合とも対話を維持することが重要である。

6. 外国企業向け支援制度

アンゴラ政府は外資誘致のため民間投資・輸出促進庁(AIPEX)を設置している。AIPEXは投資案件のワンストップ窓口として、プロジェクト申請の受理、投資契約の交渉、税制優遇の付与等を担当する。

民間投資法(2021年改正)により、投資家はAIPEXに対し投資計画の事前申告(または契約交渉)を行い、認可を得ることが推奨されている。これにより外資企業は後述の利益送金保証や税優遇を享受できる仕組みである。

1,000万米ドル超の大型案件や50人超の雇用創出案件は投資契約方式となり、政府と個別交渉でインセンティブを取り決める。それ未満の案件は定型的な事前届出方式で承認される(いずれも認可自体は義務ではないが、多くの企業が利用)。

認可投資プロジェクトには税制上の優遇が与えられる。

民間投資法および税優遇コードに基づき、投資分野と立地地域に応じ法人税・財産税・印紙税・配当源泉税などの減免措置(最大10年間の一定割合減税)が適用される。特に農業・製造業・医療教育など優先分野、および内陸部や北部カビンダ州など開発重点地域(Zone C・D)での投資は手厚い減免が受けられる。例えばゾーンC/Dでは法人税を最大85%減免、期限の制限も2021年改正で撤廃された。加えて輸入関税の免除、機械設備の増値税免税なども可能。

首都圏ルアンダ周辺にはルアンダ=ベンゴ特別経済区(ZEE)が整備され、区画内に進出する企業には用地リース料低減やインフラ優先提供のメリットがある。ZEEは製造業誘致を目的に2009年設立され、2022年には「世界有望経済区50」に選出されるなど拡充が進む。

さらに2023年にはカビンダに初の自由貿易区が設置され、域内企業には関税・間接税の全面免除措置が講じられている。

外国投資家には法律上、投資実行後に得た利益・配当の海外送金権が保証されている。投資認可を取得し、現地で納税義務を果たした後は、配当金や清算利益を制限なく本国送金可能である。

ただし外貨管理の実務面では中央銀行(BNA)の規制が存在する。アンゴラは2018年まで外貨不足が深刻で、国外送金に長期間を要する事例が多発した。現在もBNAは外貨持出に対し日次・月次制限枠を設定し、正当な取引に基づく送金(配当送金、親子ローン返済など)であっても即時には外貨調達できない場合がある。

したがって、余裕をもった資金計画と、必要に応じ現地銀行との折衝(優先的に外貨割当を受けるための手続き)が重要となる。

なお民間投資法改正により、以前存在した「投資完了まで外国企業は現地銀行から融資不可」との制限は撤廃され、現在は外資企業でも現地金融機関からの融資利用が可能となっている。

2018年以降、日本を含む一部国籍に対して観光ビザ(従来の業務渡航ビザ統合)のオンライン申請・空港発給が開始され、短期出張が容易になった。

長期駐在には労働ビザ(雇用主の受入れ前提、2年まで)または投資ビザが必要である。

投資ビザ(旧称Privileged Visa)は一定額以上を投資する外国人に発給され、2年間のマルチビザとして発給・更新可能で、3年間継続滞在すれば永住権申請資格も得られる。投資ビザの資本要件は段階別に設定され、最低5千USDから最大1500万USD以上の投資まで範囲があった(現在新規要件策定中)。

労働ビザについては、ポルトガル語翻訳の学位証明や無犯罪証明など煩雑な書類準備を要するため、現地の弁護士・エージェントのサポートを受けることが一般的である。なお、外国人不法就労への罰則は近年強化されており、企業・本人ともに厳しい処罰(懲役刑を含む)の対象となりうる。

7. 金融・資金調達制度

アンゴラで事業を行うには、現地銀行での口座開設が不可欠。主要都市ではBNA(国立銀行)認可の商業銀行(バンク・フィナンシエロBFA、アングラント銀行BAIなど)が営業しており、法人は会社登記証や納税者番号証明、取締役パスポート等の提出により口座を開設できる。

クワンザ建ての当座預金口座が一般的だが、ハードカレンシー(USDやEUR)の外貨口座も条件付きで開設可能(輸出企業や特定用途に限定)。

口座開設には本社の銀行紹介状が求められる場合もある。近年はマネーロンダリング対策が強化されており、厳格なKYC審査と取引モニタリングが行われる

。国際送金はSWIFT経由で可能だが、外貨不足時には着金まで時間を要することもある。

2018年以前は外資系企業が現地銀行からローンを受けるには投資完了後でなければならない制限があったが、現在この制約は撤廃された。外資企業でも営業開始直後から現地融資の検討が可能である。

商業銀行の貸出金利は政策金利の高さを反映し年20%前後と割高だが、信用力の高い企業(大手商社の子会社等)には比較的低利のドル建て融資が提案されることもある。アンゴラ政府系の開発銀行(BDA)は地場中小企業向けの低利融資スキームを運営しているが、外資企業は対象外。

貿易金融では輸出信用状(L/C)取引が一般的で、日本向け輸出については日本の商社金融やNEXI保証付き融資の活用例もある。

アンゴラは外貨管理が厳格な国として知られる。

輸出代金は原則として90日以内に本国送金しなければならず、海外への役務支払いも正規の請求書と税務申告を経て承認される。

外貨の社外持出には中央銀行のモニタリングがあり、累計一定額以上の送金は中央銀行の事前許可が必要となる。為替は2018年に固定相場制を廃止し管理フロートに移行したものの、政府はクワンザ急落時には市場介入を行い安定を図っている。結果として公式レートと闇レートの乖離は大幅に縮小したが、依然として企業は為替リスク管理が重要。

為替デリバティブ市場は未発達で、輸入企業はドル建て収支によるナチュラルヘッジや、親会社からの外貨借入を利用している。

アンゴラの金融インフラは近代化が進み、全国共通のATM・POSネットワーク「マルチカイシャ (Multicaixa)」が整備されている。クレジットカード決済も都市部で普及しつつある。

一方、電子マネー・モバイル決済も成長中であり、中央決済機関EMIS主導でモバイル送金サービス「e-Kwanza」や各携帯会社の電子ウォレット(Unitel Money等)が提供されている。2022年時点でモバイルマネー登録者数は約100万人と報告された。

政府は金融包摂を重要政策と位置付け、地方農村でも携帯決済が利用できるよう環境整備を進めている。外国企業も現地のモバイル決済プラットフォームと連携し、小口決済や給与支払いの効率化を図るケースが出始めている。もっとも現時点では、大半の商取引は銀行振込や現金決済が主流であり、大口送金は銀行ネットワーク経由となる。

アンゴラには現在、株式市場が存在しない。国債および一部社債がアンゴラ債券取引所(Bodiva)で電子取引されているのみである。

将来的に証券取引所開設計画があるものの、企業数や投資家育成が課題となっている。

外資企業が現地で株式公開による調達を行う環境は未整備であるため、資金需要は銀行借入や親会社からのエクイティ増資で賄う形になる。

8. 文化・商習慣・リスク

アンゴラの商習慣はポルトガルとアフリカの融合である。公用語がポルトガル語であるため、ビジネス上のコミュニケーションはポルトガル語となる可能性が高い(英語は一部の高学歴層のみ)。契約や公式文書も基本的にポルトガル語で作成される。

契約執行の難易度は高い。前述の通り裁判所での係争解決には非常に時間がかかり(世界銀行の評価で契約履行に要する期間は世界最遅水準)、法制度も旧ポルトガル法の影響で形式的要件が多い。例えば公証人による署名認証やポルトガル語翻訳が要求される場面が多々ある。

透明性国際の腐敗認識指数(CPI)では、アンゴラは2023年にスコア33/100・180ヶ国中121位と低く、官民とも汚職リスクが高いことを示している。特に公共契約取得や税関での通関時に非公式な賄賂要求が発生することが報告されている。

近年、政権は汚職防止法整備を進め、多少の改善(2019年からスコア+14ポイント)を見せているものの、なお企業活動には慎重なコンプライアンス対応が求められる。

アンゴラは2002年の内戦終結以降、政治的安定を保っている。与党による一党支配体制であり、大規模な内乱やテロのリスクは低い。

ただし懸念が全く無いわけではなく、石油埋蔵地帯の飛地カビンダ州では分離独立を主張する武装勢力(FLEC)が断続的に活動し、まれに治安事案が発生する。

また隣国コンゴ民主共和国からの難民流入や国境犯罪も懸念材料である。

中国との関係では、内戦後に中国政府・企業から巨額のインフラ融資と建設支援を受けた経緯があり、対中債務依存がリスク視されている。

原油価格の急変や主要貿易相手国(中国・米国)の経済動向がアンゴラ経済に直結するため、国際情勢の変化がビジネス環境に波及しやすい。

9. 留意事項

アンゴラのビジネス環境はアフリカの中でも難易度が高い部類に入る。世界銀行のビジネス環境ランク(2020年)では190ヶ国中177位と、ナイジェリアやエチオピアより下位であった。

アンゴラは資源大国ゆえ参入の魅力は大きいが、それに見合うリスクテイクが必要となる。アンゴラは競合こそ少ないものの、法制度未整備・行政能力不足が課題となる。

アンゴラでビジネスを営む上で、税務手続きの煩雑さに留意が必要となる。例えばVATの導入初期にはシステム不具合や税務官の知識不足から適切な申告が困難な場面があった。

また、外国企業が現地法人から配当をあげる際、上述の外貨規制も相まって税引後利益の還流に時間を要するなど、財務管理上の不確実性が高い。

法務面でも、労務紛争への対処や契約書レビューにはポルトガル法の専門知識が不可欠で、在ポルトガルの法律事務所と提携している例が多い。

以上より、専門家サービスへの依存度が高く、コスト要因となることを織り込む必要がある。

アンゴラ国内の会計士・弁護士など専門家人材はその質と数は依然限定的である。四大監査法人の現地事務所にはポルトガルやブラジルから派遣された人材が多く、サービス費用も高額で中小企業には利用が難しい。

ビザ・就労許可の延長更新に時間がかかることが多く、書類は早めに準備し継続的に入管当局をフォローすることが必要である。

10. 参考・法令ソース

  • 在アンゴラ日本国大使館 – 「アンゴラ基礎データ」「経済関係基礎データ」
  • 日本国外務省 – 「アンゴラ基礎データ」
  • アンゴラ投資促進庁(AIPEX)
  • アンゴラ国立銀行(BNA) (金融政策、通達・為替管理規則)
  • アンゴラ一般税務局(AGT)
  • 民間投資法: Lei n.º 10/18 de 26 de Junho 2018(2018年民間投資基本法)およびLei n.º 10/21 de 22 de Abril 2021(改正法)
  • 商事会社法: Lei das Sociedades Comerciais (Law No. 1/04)
  • 労働法: Lei Geral do Trabalho – Lei n.º 12/23 de 27 de Dezembro 2023
  • 税法典: Código Geral Tributário(税務一般法)、Código do Imposto Industrial(法人税法)、Código do IVA(付加価値税法)等
  • 為替法: Lei do Cambiou e Regulamentação Cambial(2012年改正外為法および規則集、外貨送金や投資家送金保証規定)

ポルトガル語用語日本語訳(定義)
Lei de Investimento Privado民間投資法(外国投資基本法)
Agência de Investimento e Promoção das Exportações (AIPEX)投資・輸出促進庁(AIPEX)
Sociedade Anónima (S.A.)株式会社(株式による有限責任会社)
Sociedade por Quotas (Lda.)有限会社(出資持分による有限会社)
Guiché Único da Empresa (GUE)企業ワンストップ窓口(商業登記・設立手続き窓口)
Imposto Industrial法人所得税(産業税)
Imposto sobre o Valor Acrescentado (IVA)付加価値税(VAT)
Imposto sobre Rendimentos do Trabalho (IRT)所得税(労働所得に対する個人所得税)
Banco Nacional de Angola (BNA)アンゴラ国立銀行(中央銀行)
Administração Geral Tributária (AGT)一般税務局(国税庁、税務当局)
Ordem dos Contabilistas e Peritos Contabilistas de Angola (OCPCA)アンゴラ公認会計士・監査士協会
Lei Geral do Trabalho (LGT)労働法(アンゴラ労働に関する基本法)
Zona Económica Especial (ZEE)特別経済区(ルアンダ=ベンゴ経済区)
Visto de Investidor (visto privilegiado)投資ビザ(旧称優遇ビザ)
Multicaixaマルチカイシャ(アンゴラ全国共通ATM・決済ネットワーク)