1. 国家基本情報

ボツワナ共和国

国名・首都:
ボツワナ共和国(Republic of Botswana)。
面積は約56.7万平方キロメートル(日本の約1.5倍)。人口は約267万人(2023年、世界銀行)と小規模であり、主要都市は首都ハボローネ(Gaborone、約23万人)およびフランシスタウンなどである。
主要民族はツワナ族(79%)を中心に複数存在する。
公用語は英語で、日常的には現地語のツワナ語も広く話されている。
通貨・為替:
通貨はボツワナ・プラ(Botswana Pula, 通貨記号: P)。2024年7月末時点の為替レートは1米ドル=13.60プラで、プラと日本円のレートは概ね1プラ=10円前後で推移している(例: 1米ドル=140円の場合、1プラ≒10円)。
ボツワナ政府は安定した金融政策を維持しており、インフレ率は2023年に5.1%となっている。中央銀行(ボツワナ銀行)は政策金利を1桁台(2024年末時点で政策金利1.90%)に抑え、物価安定を図っている。
経済指標:
ボツワナは豊富なダイヤモンド資源に支えられた中高所得国であり、2023年の名目GDPは約194億米ドル、一人当たりGNIは7,620米ドルである。
ダイヤモンド産業が経済の柱で、輸出や政府歳入の大半を占めてきたが、近年は経済の多角化政策「Vision 2036」や国家開発計画の下で鉱業以外の育成に取り組んでいる。
2023年の実質GDP成長率は2.7%で緩やかな成長を示し、失業率は23.4%と依然高水準にある。
産業構成は鉱業(ダイヤモンド・銅など)のほか、牛肉輸出に基づく農牧畜、観光業、公的部門が主要な位置を占める。
日本との関係:
日本とボツワナは1966年の独立以来友好関係にあり、在ボツワナ日本国大使館は2008年に開設された。貿易面では日本からボツワナへの輸出が2023年に約25.85億円、ボツワナから日本への輸入が約30.91億円となっており、日本は主に機械類や車両等を輸出し、ボツワナからダイヤモンド(宝石・工業用)が輸入されている。
日本企業の進出は限定的であり、拠点数は2024年時点で6社程度に留まる(鉱業向け機械や商社拠点など)。
一方、日本は長年にわたり政府開発援助(ODA)を通じた協力を行っており、火力発電所・道路建設への円借款や技術協力(職業訓練、人材育成など)を提供してボツワナの経済社会開発を支援してきた。
2. 法人設立制度
法人形態:
ボツワナで事業を行う法人形態としては、主に
(1) ボツワナ国内で新たに法人を設立する方法と、
(2) 海外法人を現地に登記する支店(External Company)として活動する方法
の2通りがある。
新設できる会社形態は会社法(Companies Act)上、
- 有限責任会社(株式有限会社)、
- 株主の少ないクローズド・カンパニー、
- 保証有限会社
などが規定されている。
通常は株式有限責任会社(Company Limited by Shares)の形で設立され、公開会社(Public Limited Company, PLC)または非公開会社(Private Company, Pty Ltd)に分類される。非公開会社は株主数25名以下で株式の公募が禁止されており、公開会社は株主数に上限なく株式公開も可能である。
中小の外資企業には株主が1名から設立可能な非公開会社形態が一般的であり、他に現地登記の支店形態(External Company)も選択肢となる。支店は現地法人を新設しないため管理負担が軽い一方、ボツワナでの事業全責任が本社に及ぶ(無限責任)という特徴がある。
外資規制:
ボツワナでは外資に対して原則的に100%外資出資の会社設立が認められており、株主にボツワナ市民を含める法的義務はない。したがって日本企業が現地法人を設立する際も資本面で現地出資者を求められることはなく、親会社が全株式を保有できる(※取締役等の居住要件は別途あり)。
ただし一部の小売・サービス業など内需型の35業種については、商業取引法(Trade Act)によりボツワナ市民(あるいは市民が全株保有する法人)のみに免許が交付される「国民限定業種」に指定されている。
具体的には食料品の小売(スーパーマーケットチェーン除く)、酒類販売、ガソリンスタンド、美容院、タクシー営業、葬儀サービス、土地輸送業、小規模建設工事、家具製造などが該当し、外国企業がこれら業種に参入する場合はボツワナ人との合弁での中規模事業に留めるか、例外的に貿易大臣の事前承認を得て多数出資する必要がある。
この外資規制は地場中小企業保護の目的で運用されており、多くの製造業や輸出型産業については適用されない。
資本金要件:
会社設立に必要な最低資本金の法定要件は基本的に存在せず、1プラからでも有限責任会社を設立できる。実務上は事業規模に見合った資本金を設定することが望ましいが、商業登記上の払込資本額に制限はない。
ただし、後述のように一定額以上の投資や外国人雇用ビザ取得の際には相応の事業資金を有することが事実上求められるケースがある。
登記手続き:
法人登記は「会社・知的財産庁(CIPA)」が所管し、オンライン登記システム(OBRS)を通じて行うのが一般的である。
まず希望商号を3候補まで申請し、使用可能か名称調査を行った上で予約(予約料20プラ)する。その後、定款や株主・役員情報を登録システムに入力し、登録手数料360プラを支払って申請すると、問題がなければ数日〜1~2週間程度で法人登録証明書が発行される。
手続きはオンラインで完結可能だが、必要書類(設立申請書、役員の身分証明、住所証明など)は整備が必要である。
会社設立に際しては、少なくとも1名の取締役が「通常ボツワナ居住者」であること、および会社秘書役(Company Secretary)を任命することが義務付けられている。会社秘書役はボツワナ勅許会計士協会(BICA)会員や弁護士など資格を有する者が務める必要があり、登記申請時に秘書役の就任承諾も登録する。
これら要件・手続きを踏まえれば、ボツワナでの新規法人設立はオンライン化により以前より迅速化しており、手数料も低額で比較的手軽であるが、登記後には税務登録や事業免許取得など追加手続きが必要となる。
3. 税制度
法人税(企業所得税):
ボツワナの法人所得税率は居住法人(一国二制度による本国税制の適用を受けない現地法人)の場合、標準税率22%である。また輸出型製造業など政府承認を受けた特定事業については優遇税制があり、適用対象となる「認可製造企業」の所得には15%の軽減税率が適用される。
他方、国外法人の支店形態(外資支店)はボツワナ源泉所得に対し30%の税率が課される。
なお2021年以降、特別経済区(SEZ)内で認可を受けた事業については、更に低い5%の特別法人税率(初年度から10年間、その後は10%)が適用される制度が開始された。
課税所得の算定にあたっては減価償却や損失繰越(通常期間6年、鉱業は無期限)、寄付金控除など一般的な税務調整が認められている。
源泉徴収税としては、配当金に対し10%(内国・非居住株主とも)、利子に対し居住者10%・非居住者15%、使用料に対し非居住者15%が課される。海外送金される配当・利息についてはこの源泉徴収をもって最終税となり、租税条約があれば軽減される場合がある(日本とボツワナ間に現在租税条約は締結されていない)。
法人税は年間を4期に分けて予定納税(SAT)し、事業年度終了後に確定申告を行う。法人の課税年度は通常7月1日から翌年6月30日だが、事業体ごとに選択も可能である。なお配当に対する二重課税を調整するため、法人段階の課税後に支払われた配当については受取側では非課税となる措置(免税配当)が設けられている。
付加価値税(VAT):
ボツワナでは物品・サービスの売上に付加価値税(Value Added Tax, VAT)が課される。
標準税率は近年変更があり、2022年に一時12%へ引下げられた後、2023年4月より標準税率14%に戻された。VATは原則として国内取引および輸入取引に課税され、事業者はVAT登録義務がある(年間売上額が特定のしきい値以上の場合は強制登録、それ未満でも任意登録可)。
VAT登録事業者は売上VATから仕入VATを控除した差額を申告納付し、過払いの場合は還付を受けることができる。
基本的な食品・農産品や輸出売上には0%税率(ゼロ税率)が適用され、一部の金融・教育・医療サービス等は非課税(VAT対象外)と定められている。2023年の税法改正により、一定の生活必需品(調理前の食用油・動物飼料等)のVATゼロ税率範囲が拡大されるなどの措置も講じられた。
個人所得税:
個人の所得税は累進課税で、課税所得が高くなるにつれて税率が0%から最大25%まで上昇する。税率構造は、年額48,000プラ以下の所得は非課税、48,001~84,000プラの部分に5%、84,001~120,000プラの部分に12.5%、120,001~156,000プラの部分に18.75%、156,000プラ超の部分に25%が課される。
非居住者についても税率帯は同じだが、最初から5%課税が適用される点が異なる。
給与所得については源泉徴収(PAYE制度)が義務付けられ、雇用主が月次で控除・納付する。社会保険料に相当する全国レベルの公的年金制度は存在せず、代わりに民間の積立年金基金(任意加入)が一般的なため、給与税以外の社会保障税はない。
また、キャピタルゲイン(資本利得)は譲渡益として別計算されるが累進税率(最高25%)で課税される。
不動産売買時には別途「譲渡益税」や登録免許税に類する税がかかるケースがあり、特に外国人が不動産を取得する際には物件価格に対して以前は30%もの高額な移転税(Transfer Duty)が課されていたが、2023年の法改正で非居住者の不動産取得税率は10%(物件価格200万プラ以下部分)に大幅軽減された。この改正により外国企業・個人による不動産購入時の税負担は緩和されている。
その他の税金:
ボツワナには相続税・贈与税はなく、資本移転に関する課税は不動産の移転税(上記)程度である。
雇用主には従業員訓練のための「人材開発基金拠出金」が課されており、これは売上高の0.2%相当額が拠出金として徴収される制度で、付加価値税の仕組みを通じて歳入局(BURS)が代行徴収する。
また、取引相手が源泉徴収を行う形での税金も存在し、不動産賃料(年間48,000プラ超)に5%、建設工事代金に3%の源泉徴収税が定められている。
税務行政はボツワナ統合歳入局(BURS)が担当し、電子申告プラットフォームの導入など納税環境の整備が進められている。
4. 会計・監査制度
会計基準:
ボツワナでは国際会計基準の採用が進んでおり、公開会社および一定規模以上の非公開会社については国際財務報告基準(IFRS)の適用が義務付けられている。
2007年会社法および2010年財務報告法の下、公開会社および「非免除の私会社」(一定条件を満たし免除されていない非公開会社)はIFRSに準拠した財務諸表を作成しなければならない。上場企業や銀行・保険など公益性の高い企業(Public Interest Entities)は完全IFRSの適用が求められ、それ以外の中小企業についてはIFRS for SMEs(中小企業向け簡易基準)の使用も認められている。
ボツワナは1990年設立のボツワナ勅許会計士協会(BICA)が会計士資格の付与・監督を行い、2010年財務報告法に基づき設立された「ボツワナ会計監査監督庁(BAOA)」が会計・監査基準の採用と企業財務報告の品質管理を所管している。BAOAはIFRS基準書をそのまま受け入れる方針をとっており、現在ボツワナ国内ではIASBが公表する最新のIFRS基準がそのまま法的に有効となっている。
監査要件:
ボツワナ会社法では「免除私会社(exempt private company)」を除くすべての会社に財務諸表の法定監査を義務付けている。免除私会社とは一般に株主が役員を兼ねるなど小規模で外部利害関係者の少ない非公開会社を指し、その条件を満たす場合には監査が免除されうる。
一方で公開会社や免除対象外の会社は毎事業年度末に監査人による独立監査を受け、その監査報告書と財務諸表を株主総会で承認する必要がある。
監査人として署名できるのはBICAの公認会計士資格を持ち、かつBAOAにより監査実務登録された監査法人/会計士である。
上場企業については監査済み財務諸表を証券取引所(BSE)に提出し公開する義務があり、銀行など金融機関も監督当局への年次報告が課されている。一方、非公開会社は監査を受けた財務諸表を対外的に公開する法的義務はないが、歳入局への税務申告時や銀行融資時などには提出を求められる場合がある。
登録要件:
ボツワナで会計士・監査人として業務を行うには、ボツワナ勅許会計士協会(BICA)への会員登録が必要である。BICAは英国勅許会計士協会系の制度を踏襲しており、英国や南アフリカの会計士資格を持つ者にも相互認証の形で会員資格を付与している。
また監査業務を行うにはBAOAの発行する公認監査人ライセンスを取得しなければならない。
企業側の財務部門においても、一定規模以上の企業では財務担当役員にBICA会員を起用することが推奨される。
会社秘書役についても前述の通りBICA会員や弁護士資格者であることが要件となっている。
このように会計・監査の専門人材については資格制度により一定の水準が維持されている。
財務諸表の提出:
非公開会社の場合、法定監査を受けた財務諸表は社内保管が原則で、公的機関への定期提出義務はない。ただし、BAOAは公益性の高い企業(PIE)に対し財務報告のモニタリング権限を持ち、必要に応じて報告を求め監査品質を検査することができる。
公開会社はボツワナ証券取引所への年次報告書提出と投資家への開示が義務付けられる。
全ての会社は毎年、会社登記に関する年次届出(Annual Return)をCIPAに提出し、基本的な会社情報を更新する必要があるが、その際に財務情報の細部までは求められない。したがって、ボツワナでは未上場民間企業の財務諸表は外部から閲覧できず、信用調査には取引先から直接入手するか信用調査会社を利用する必要がある。
5. 労務制度
雇用契約:
ボツワナの労働法制は主に労働法(Employment Act)に定められており、雇用契約は期間の定めの有無により無期契約と有期契約に大別される。試用期間(使用期間)についての規定は法律に明記されていないものの、慣行的に3〜6か月の試用期間を設ける企業が多い。雇用関係は原則として個人と企業の直接契約となるが、人材派遣会社が労働者を雇用して企業に派遣する形態(いわゆる雑役業など)が存在し、その場合も派遣労働者の最低賃金や労働条件は法により保護される。
最低賃金:
ボツワナには産業別に最低賃金額が設定されており、労働省が定期的に見直しを行っている。
2024年2月に最低賃金の改定が実施され、多くの業種で時給9.06プラに引き上げられた。例えば建設業、卸売・運輸、製造業、サービス業(宿泊・娯楽・警備など)いずれも最低賃金は時給9.06プラ(改定前は7.34プラ)となっている。小売業についても同額の9.06プラ(改定前6.51プラ)に引き上げられた。なお家事使用人(メイド等)や農業分野は月額で定められており、農業労働者は月額1,500プラ(2024年改定、従前1,084プラ)となっている。
最低賃金の水準は日本円換算で時給約90〜100円程度と低く、人件費は比較的廉価である。ただし失業率が約27%(2024年)と高いため、都市部の技能労働者など一部職種では最低賃金を上回る水準での人材確保が必要となる。
労働時間:
法定の標準労働時間は週48時間(1日8時間・週6日)である。一般的な勤務体系は平日(月〜金)8時間+土曜半日勤務等で週40〜45時間程度に設定する企業が多い。週48時間を超える労働(残業)には時間外割増賃金の支払いが必要で、通常は平日残業が基本給の1.5倍、休日出勤は2倍の割増率が適用される。
週休は少なくとも連続24時間以上(日曜を休日とする例が一般的)与える義務がある。年次有給休暇は勤続1年ごとに最低15労働日(約3週間)付与され、未消化の場合は繰越しか買上げが必要となる。
また病気休暇についても年間14日(医師診断書提出の場合は年間30日まで)の有給保障が法律で定められている。
女性労働者には産前産後各6週間の産休があり、その間一定額の給与が支給される制度がある。
解雇・退職:
従業員を解雇(雇用契約の解除)するには正当な理由が必要で、不当解雇は法律で禁じられている。業績悪化などによる人員整理(整理解雇)や従業員の違法行為・能力不足による懲戒解雇の場合でも、事前の通知期間の付与または相当額の解雇手当(代償金)の支払いが求められる。解雇予告期間は勤続年数に応じて定められており、例えば2年以上5年未満の勤務者の場合30日間の予告、5年以上の場合60日間の予告が必要といった基準がある(雇用契約でより長い期間を定めることも可能)。
さらに勤続が長期に及ぶ従業員には「退職手当(Severance)」の支給義務が生じ、少なくとも勤続5年ごとに積み立てられた退職一時金を支払う必要がある。具体的には5年(60か月)継続雇用された労働者には1か月当たり基本給の1日分相当×60ヶ月=60日分の賃金が退職手当として支給される制度になっている(企業が同等以上の社内年金制度を有する場合は免除可)。この退職手当制度により長期勤続者の老後資金が一定程度保障される仕組みである。
労働争議・労使関係:
ボツワナは労使関係が比較的安定した国と評価されているが、公務部門や鉱山セクターでは労働組合が組織されストライキが行われることもある。
労働争議が生じた場合、まず地方の労働局に紛争が通報され、政府の労働調停官が当事者間の和解を仲介する手続きが定められている。それでも解決しない場合には労働委員官から「セクション7証明」が発行され、労使双方は産業裁判所(Industrial Court)に訴えることが可能となる。法定の調停プロセスを経ずに行うストライキは違法となるため、大半の労働争議はまず調停段階で解決を図る。
ボツワナの腐敗認識指数(CPI)に見る低い汚職水準は労働行政にも反映されており、労働局での手続きが賄賂等で歪められる事態は稀である。全体として契約遵守意識は高く、従業員の権利保護と円満な労使関係の構築が重視される文化が根付いている。
6. 外国人進出企業向け制度
特別経済区と投資優遇:
ボツワナ政府は海外からの投資誘致のため、複数の特別経済区(SEZ)を指定している。SEZに入居し認可を受けた企業には、税制・インフラ面で大幅な優遇措置が与えられる。
代表的なインセンティブとして、
- 最初の10年間は法人税率5%(その後10%)という大幅な減税、
- 原材料や機械設備の輸入関税免除、
- 輸出向け原材料に対するVATゼロ税率、
- 土地建物の取得にかかる移転税免除、
- 操業開始後5年間の不動産税(財産税)免除
などがある。
また、99年間の長期土地リース契約の提供や、工業団地として整備された用地への優先入居、高速通信回線や上下水道等のインフラ完備、環境影響評価(EIA)手続のSEZ庁一括サポートといった優遇も提供される。
SEZ庁(SEZA)はワンストップサービス窓口を設置しており、企業登録、各種許認可、インフラ接続手配、税務登録まで一括して支援を行う。現在、ダイヤモンド加工の拠点であるガボローネ公園や、物流ハブとしてのシラセSEZなど複数のゾーンが稼働中で、製造業・物流業を中心に誘致が進んでいる。
投資促進機関:
一般の地域で事業を行う外資企業に対しても、政府は「ボツワナ投資貿易センター(BITC)」を通じワンストップ型のサービスを提供している。BITCは外国企業の会社設立手続き支援、事業許可・免許の取得サポート、現地サプライヤーや合弁相手の紹介、税関手続き相談など幅広く投資家を支援する窓口である。またBITCは特定の戦略分野(例:農業加工、金融サービス、エネルギーなど)への投資案件について、追加の税控除や補助金などを得られるよう政府と投資家の仲介も行っている。
ボツワナ政府は「経済多角化促進プログラム」の下、一定基準(輸出収入増、雇用創出、地域貢献など)を満たす新規投資プロジェクトに対し法人税の減免措置(先述の15%特別税率適用など)を個別認可する制度も運用しており、該当する場合はBITCを通じて申請が可能である。
全般的にボツワナはアフリカの中でも投資受入姿勢が良好な国と評価され、2022年には国際格付機関によるカントリーリスク評価で投資適格級を維持した。
ビザ・労働許可:
日本国籍者は観光・商用目的の90日以内の滞在であればビザ不要で入国できる(二国間協定に基づく措置)。長期滞在や就労には就労許可証(ワークパーミット)と居住許可(レジデンス許可)が必要となる。
就労許可の取得には受入先企業が所管官庁に申請し、当該外国人の職務がボツワナ人では代替困難であることを示す必要がある。製造業・大型プロジェクトなどでは比較的許可が下りやすいものの、一般管理職や単純労務職への外国人起用は制限される傾向にある。近年では投資家や高度技能人材向けにビザ発給を迅速化する動きもあり、SEZ入居企業についてはSEZAがビザ・許可手続きの特別支援を提供している。
通常、就労許可は2〜3年ごとの更新制で、更新時には現地人材育成の進捗や事業の継続状況が審査される。なお、外国人駐在員の扶養家族についても付随的に居住許可が発給され、配偶者は別途就労許可なく就労できない点に留意が必要である。
外貨規制:
ボツワナは1999年に為替管理を撤廃して以来、資本取引の自由化が確立されている。現在、外国為替及び資本送金に対する制限は原則存在せず、海外からの資本投資や利益・配当金の本国送金も自由に行うことができる。外貨建ての銀行口座開設も法人・個人ともに可能であり、企業は輸出代金や外貨借入金をプラ建てに強制転換されることなく保持できる。
ただし、マネーロンダリング防止(AML)の観点から、10万プラ相当額以上の国外送金を行う場合は銀行での申告手続きや送金理由の証明書類提出が求められる。また、企業が配当金やロイヤリティを海外送金する際には歳入局(BURS)から納税状況に問題がない旨の税務クリアランスを取得する実務慣行がある。これら手続きは為替統制ではなく税務管理上の措置である。
7. 金融・資金調達制度
銀行口座開設:
ボツワナ国内には商業銀行が複数存在し、主な銀行としてはファースト・ナショナル銀行(FNB)、スタンダードチャータード銀行、スタンビック銀行、アブサ銀行(元バークレイズ)などが営業している。
法人の銀行口座を開設するには、会社登録証明書、取締役の身分証明書(パスポート等)と居住証明、株主構成や主要な事業内容の説明書類、税番号(TIN)の提示などが求められる。近年は金融当局の方針で口座開設時の顧客確認(KYC)が厳格化されており、取引銀行によって必要書類が若干異なるが、全般に準備書類が整っていれば口座開設手続き自体は数営業日で完了する。外国企業の現地法人や支店も、登記完了後であればプラ建て口座や外貨建て口座を自由に開設可能である。
なお個人(駐在員)の口座開設には就労許可や住所証明(公共料金請求書等)の提示が必要となる。
銀行は国内主要都市に支店網を持ち、インターネットバンキングも普及しているため、資金管理は比較的容易である。
資金調達(借入):
現地銀行の貸出金利は中央銀行の政策金利に連動し、市場金利は2024年現在おおむね年6〜8%程度で推移している(ボツワナの政策金利1.90%+銀行のマージンを含む)。
資本市場面ではボツワナ証券取引所(BSE)に社債を上場することも一部企業で行われているが、基本的に資金調達は銀行借入に依存する企業が多い。南アフリカ共和国の金融市場とも繋がりが深く、必要に応じて南アフリカの銀行からボツワナ企業が資金調達するケースもみられる。
送金・為替サービス:
前述の通り外貨送金に制限はないため、企業は海外への送金(配当送金、輸入代金決済、親会社へのロイヤルティ支払い等)を自由に行える。商業銀行は主要通貨(米ドル、ユーロ、円など)の即日送金サービスを提供しており、SWIFTネットワークを通じた国際送金が可能である。
円貨建て送金も大手行では取り扱いがあり、日本への送金も円建て・ドル建ていずれかで迅速に処理される。為替取引についてはボツワナ・プラは国際的な取扱高が小さいため、日本国内銀行での直接両替は難しいが、プラ⇔米ドルの交換は国内銀行で日常的に可能である。
資金移動に際して注意すべき点は、送金額が大きい場合に銀行が資金の出所確認を行うことや、納税義務を確認するため歳入局のクリアランスレター取得を求めることがある点である。とはいえ、合法的な事業収益の範囲内であれば送金自体が規制されることはなく、企業は利益の本国送金や輸入代金支払いを滞りなく行える。
為替レートは管理フロート制の下で市場実勢に合わせて緩やかに変動しており、対米ドル相場は近年下落傾向にあるものの安定的である。
フィンテック動向:
ボツワナでも近年、携帯電話を利用したモバイルマネー決済やフィンテックサービスの普及が進んでいる。通信各社(Mascom、Orange、BTCなど)は電子マネー口座を提供しており、都市・地方を問わず個人間送金や光熱費支払いに広く利用されている。
2024年時点で15歳以上のボツワナ国民の36.6%が何らかのモバイルマネー口座を保有しているとの統計があり、従来銀行口座を持たなかった層にも金融サービスが浸透しつつある。特に若年層や地方居住者にとって携帯決済は身近であり、給与の一部をモバイルウォレットで受け取るケースも増えている。
政府もキャッシュレス経済の推進を掲げており、2022年には電子決済の信頼性向上を目的とした決済システム規制の整備(フィンテック企業のライセンス制導入等)を行った。もっとも、電子商取引市場は規模が小さく、オンラインショッピングやデジタル金融商品は発展途上である。
8.コンプライアンス・その他リスク
汚職・コンプライアンス:
ボツワナはアフリカで最も汚職が少ない国の一つとされ、2023年のトランスペアレンシー・インターナショナル腐敗認識指数(CPI)では100点満点中57点、世界180か国中43位と良好な評価を受けている。このスコアはアフリカ大陸内でトップクラスであり、汚職が社会に根深く蔓延していないことを示す。
同国では汚職・経済犯罪局(DCEC)が1980年代から積極的に汚職摘発に取り組み、公務員による収賄や公金横領には厳しい姿勢をとってきた。そのため、企業が役所で許認可を得る際に不当な賄賂を要求されるようなケースは極めて稀である。
地政学的リスク:
ボツワナは政治的安定性が非常に高く、独立以来クーデターや内戦を一度も経験していない。与野党が存在する民主国家でありつつ、独立以降の長期政権与党が安定した統治を維持してきたという特徴がある。隣国も南アフリカ、ナミビア、ザンビア、ジンバブエと比較的安定した国々に囲まれており、周辺国との紛争リスクも低い。南部アフリカ関税同盟(SACU)や南部アフリカ開発共同体(SADC)の一員として地域協調を推進しており、近隣国との経済・人の往来も円滑である。
テロや戦乱といった地政学リスクは現時点で顕在化していないが、一方でボツワナ固有のリスク要因としては経済のダイヤモンド依存が挙げられる。ダイヤ価格の国際相場や需要変動によって国家収入が大きく左右されるため、世界経済の動向いかんでは政府歳入や為替相場に影響が及ぶ可能性がある。
また、大陸部の内陸国ゆえに港湾を持たず、輸出入は南アフリカやナミビアの港を経由する必要があるため、物流面で周辺国インフラに依存している。
総じてボツワナの治安は良好で、首都ハボローネでは夜間の徒歩移動も比較的安全と言われるが、失業問題に起因する軽犯罪(空き巣や窃盗)は存在するため注意が必要である。
9. 実務上の留意事項
日系企業の進出状況:
ボツワナへの日本企業進出は他のアフリカ主要国に比べると少ない。多くは南アフリカや他国拠点からの駐在事務所や、特定分野でのニッチな事業展開となっている。現状では日本企業のプレゼンスは限定的で、ボツワナにおける外国企業と言えば南アフリカ資本や欧米資本が中心である。
進出のメリット・優位性:
ボツワナに進出するメリットとしては、まず政治・社会の安定と法制度の整備が挙げられる。汚職が少なく法治が行き届いているため、外国企業も公平にビジネスができる。
法人税率22%や配当の源泉税10%など税負担が適度に低く、特別経済区を活用すればさらに税率引下げや税免除の恩恵を受けられる。
南部アフリカ関税同盟(SACU)の一員であるため、ボツワナに拠点を構えることで南アフリカ共和国やナミビアなど周辺市場へ関税なしでアクセスできる点も戦略上有利である。
労働力は英語運用能力があり教育水準も比較的高い若年層が多く、技能訓練を施せば真面目に働く人材を確保できる。また現地人件費は総じて低廉で、特に非熟練労働力については周辺国よりもコスト競争力がある。
インフラ面では主要都市の電力・通信網が良好で、停電も少なく通信環境も4G通信が全国に普及している。
投資保護の観点でも、ボツワナは国際紛争解決機関への加入や投資保護協定の網にも積極的で、外国人資産の国有化リスクも極めて低い。加えて、豊富な野生動物と自然景観による観光ポテンシャルや、隣国ジンバブエ・ザンビアとのクロスボーダーインフラ(例:カズングラ橋)完成による物流効率化など、将来的な成長機会も期待される。
留意点・進出のハードル:
最大の課題は市場規模の小ささで、人口わずか260万人強の国内市場だけでは事業拡大に限界がある点である。そのためボツワナ拠点を周辺国市場攻略の一拠点と位置づけ、輸出ビジネスを前提にする戦略が求められる。
人材面では、高度技能人材(会計士、エンジニア、マネージャー等)が慢性的に不足しており、優秀な人材は南アフリカに流出するケースもある。
物流面では、ボツワナは海港から遠いため輸出入コストが割高になりがちであり、サプライチェーンの構築には注意を要する。
10. 参考ソース
- 会社・知的財産庁(CIPA) – ボツワナの企業登記および知的財産登録機関
- ボツワナ統合歳入局(BURS) – 税務当局
- ボツワナ銀行(中央銀行) – 通貨金融政策・経済統計の公表
- ボツワナ投資貿易センター(BITC) – 投資促進機関
- 特別経済区庁(SEZA) – 特別経済区の規制・運営機関
- ボツワナ勅許会計士協会(BICA) – 会計士資格付与・職業規範の団体