ニジェール共和国の法人・会計監査・税労務等の基本情報

アフリカ各国の情報

1. 国家基本情報

首都

首都はニアメ。国土面積は約126.7万平方km(日本の約3.3倍)である。

人口

約2,703万人(2024年)

公用語

フランス語

通貨

西アフリカ CFAフラン(XOF) 為替レートは1 USD=約581.71 XOF(2025/05月平均)

経済指標:

名目GDP:約195億ドル(2024年) 一人当たりGDP:約723ドル(2024年) 実質GDP成長率:8.4%(2024年) インフレ率:9.1%(2024年) 輸出額:約4.46億ドル(2022年) 輸入額:約37.9億ドル(2022年)

石油生産開始による一時的ブームもあったが、経済は天候や周辺国情勢に左右されやすい。

主要産業は農牧業とウラン採掘であり、近年少量の原油生産も始まっている。主要輸出品はウランなど鉱物資源・金属類やゴマ種子等、主要輸入品は食料(穀物)、車両、機械類である。

日本との関係:

対日輸出:約1.8億円(2022年) 対日輸入:約9.9億円(2022年) 日本への輸出品目:ゴマなど 日本からの輸入品目:機械類など

1960年の独立以来、日本と友好関係を維持している。日本国大使館は隣国コートジボワールの大使館が兼轄し、ニジェール側も駐日大使館を北京の在中国ニジェール大使館で兼轄している。

一方、日本は同国に対し累計で無償資金協力約613億円、技術協力約222億円(~2020年)を実施しており、教育・保健や食糧支援など開発協力を通じた関与が中心である。

2. 法人設立制度

法人形態:

ニジェールはビジネス法をOHADA(アフリカ商事法統一機構)の統一法に従っており、主な法人形態は「有限責任会社(SARL)」と「株式会社(SA)」である。SARLは1名から50名までの出資者で設立できる。また、OHADA法により一人会社(SARLユニパーソネル、SAユニプソネル)も認められている。

外国企業が現地で活動する場合、現地法人設立のほかに支店(支社, succursale)や駐在員事務所(bureau de liaison)の開設も可能であるが、支店は親会社から独立しない無限責任形態であり、駐在員事務所は商取引活動が制限されるため、進出形態としては通常SARLの設立が選択される。

外資規制:

ニジェールでは法律上、外資に対して包括的な参入規制はなく、ほとんどの業種で100%外資による法人所有が認められている。投資法(2014年改正)により外資も内資と同等に保護されており、投資資本や利益の送金の自由が保証されている。ただし、鉱業・石油など特定分野は個別の鉱業法・石油法に基づく許認可が必要で、商業(単なる商品売買)のみを目的とする事業は投資優遇の対象外とされる。

資本金要件:

法定最低資本金 SARL:10万CFAフラン(約170米ドル) SA:1,000万CFAフラン(約17000米ドル相当)

資本金は設立時に銀行口座へ払い込み、SARLの場合は出資金の2年以内分割払いも認められる。OHADA法上、株主の有限責任が確立されており、出資額を超える負債責任は負わない。

登記手続き:

ニジェールでは企業登録手続きが近年簡素化されており、ワンストップ窓口で設立関連手続きを一括処理できる。具体的な手順は、商号の事前確認、定款(Statuts)の作成、公証人による認証、銀行への資本金払込証明取得、そして商業登記・税務登録・社会保障(CNSS)登録の申請となる。必要書類一式が整えば、通常数週間で法人登記が完了し、登録証明書と納税者番号などが付与される。

3. 税制度

法人税:

法人税率:30%(2025年時点)

課税対象は原則としてニジェール国内源泉所得であり、内国法人は全世界所得課税だが国外所得には外国税額控除などが適用される。赤字が生じた場合、最大3年間の繰越控除が認められる(繰戻し不可)。

また、企業が無利益であっても最低税(売上高に対する最小税負担)が課される制度がある。配当金や利子・使用料等の国外送金には源泉徴収税(通常10%)がかかる。

付加価値税(VAT):

付加価値税率:標準税率19%

国内で提供される商品・サービスの販売に広く適用され、月次もしくは四半期毎に申告・納付する義務がある。一定の生活必需品(医薬品や一部食料品など)には軽減税率10%や5%が適用される場合がある。

個人所得税:

個人の給与・事業収入には累進課税の所得税が適用される。給与所得については源泉徴収される「給与所得税(IUTS)」があり、課税所得額に応じ0%~35%の税率が段階的に適用される。非居住者はニジェール国内源泉の所得のみ課税対象となる。なお、家族構成に応じた諸控除が認められる。

その他の税金:

上記以外に、事業活動に関連する主な税として事業税や登記税、印紙税等が存在する。例えば企業の営業許可税(ライセンス税)が年次で課され、不動産所有には地方税として資産税が課せられる。

また企業が従業員を雇用する場合、給与総額に対し給与税(法人負担: 自国民2%、外国人4%)が賦課される。社会保険への拠出も雇用主17.4%、労働者5.25%の率で義務付けられている(年収600万CFAフランまでの部分に適用)。

さらに、対外送金に係る源泉徴収税として、非居住者への配当・利息・ロイヤルティ支払に一律10%(技術サービス料は16%)の課税が行われる(租税条約がある場合はその定めによる)。

税制は基本的に申告納税方式であり、適時の申告・納付と正確な会計記録の整備が求められる。

4. 会計・監査制度

会計基準:

ニジェールはOHADAの統一会計制度(SYSCOHADA)を採用している。すべての企業はSYSCOHADAに従った帳簿記録と財務諸表の作成が義務付けられており、勘定科目や報告様式が統一されている。

上場企業や金融機関など公共的利害の強い企業については、連結財務諸表に限り国際会計基準(IFRS)の適用が認められるが、一般企業の法定財務諸表は原則としてOHADA会計基準に準拠する必要がある。

監査要件:

OHADA会社法に基づき、株式会社(SA)では常に公認会計監査人(Commissaire aux comptes)の選任と定期監査が義務付けられる。

一方、SARL(有限会社)では小規模企業に監査義務はないが、総資産額が1,250万CFAフラン超、または年商2億50百万CFAフラン超、または従業員50名超のいずれかに該当する中堅以上のSARLは監査人を選任し会計監査を受ける必要がある。

監査人は株主総会で選任され、任期3年で監査報告書を提出する。

登録要件:

ニジェールにおける会計士・監査人は国家資格と登録が必要となっている。国家公認会計士協会(ONECCA)が存在し、会計監査業務を行うには同協会への加盟と公認会計士資格が求められる。

また、監査人には職務上の独立性が法律で要求されており、経営関与や利害関係がある場合は就任できない。

財務諸表の提出:

企業は事業年度終了後、定時株主総会を開催して財務諸表を承認し、その後一定期間内(通常年度末から6か月以内)に所管機関への提出が義務付けられる。

また税務当局にも毎年度の財務諸表と法人税申告書を提出しなければならない。

適時な決算と所定の提出を怠ると罰金等の行政処分対象となる。

5. 労務制度

雇用契約:

労働契約は原則として期間の定めのない無期契約が標準であり、雇用主が労働者を解雇する場合は正当な理由(勤務成績や企業運営上の必要)が求められる。

期間の定めのある契約(有期契約)はプロジェクト等の一時的業務に限られ、契約期間の最長や更新回数に制限がある(連続した長期の有期契約は無期契約と見なされる場合がある)。

試用期間は労働者の職種に応じて設定できるが最長6か月程度で、試用期間内は双方からの即時解約が可能である。

使用者は採用に際し労働監督局(労働省付属機関)への報告義務があり、とくに外国人労働者を雇用する際には別途後述の許可手続きが課される。

最低賃金:

最低賃金額:月額42,000 CFAフラン(約70米ドル)

最低賃金は主に非熟練労働者の給与下限として適用され、違反した雇用主には罰則が科される。なお、各種手当やインフレ補正は別途政令や労働協約で定められることがある。

労働時間:

法定労働時間:週40時間(1日8時間×5日) 時間外労働割増賃金率:平均35%程度

一般に週労働は月~金曜日の所定労働と土曜日午前の一部勤務で調整される場合もあるが、公務員や多くの企業では金曜日午後を休業とする形で40時間に収めている。

また、労働者は年間少なくとも30日の有給休暇を取得する権利があり(1ヶ月勤務につき2.5日換算)、雇用主は年次休暇の取得を保障しなければならない。祝祭日はイスラム教の行事に基づくもの(例: 犠牲祭、開斎祭)や独立記念日などが年間10日前後ある。

解雇・退職:

無期契約社員を解雇する場合、あらかじめ解雇予告期間を設ける必要があり、勤続年数に応じた最低予告期間が定められている。解雇予告を行わない場合はその相当額の解雇予告手当を支払う義務がある。労働者側にも退職の際は同様の予告義務がある。

解雇理由が労働者の重責懲戒に基づかない場合、勤続1年以上の労働者には退職手当(解雇手当)が支給される。ただし労働者に重大な過失・違法行為があった場合は解雇補償は支払われない。

定年は公務員の場合60歳前後だが、民間では特に法定の退職年齢規定はなく、多くは60歳程度で社会保障基金の老齢年金受給資格を得て引退する。

労働争議・労使関係:

労働者の団結権と団体交渉権は法律で認められており、主要産業には複数の労働組合が存在する。労働争議が発生した場合、労働監督官(労働省の労働局)が紛争調停に関与し、必要に応じて労働裁判所での解決が図られる。労働法により不当解雇と認定された場合には労働者の復職または損害賠償が命じられる制度になっている。

6. 外国人進出企業向け制度

特別経済区と投資優遇:

ニジェールには明確な「特別経済区(経済特区)」はないものの、国家投資コードに基づく投資優遇制度が整備されている。大きく分けて、一般投資優遇措置と輸出型企業向けのフリーポート(Zone Franche)制度がある。

一般投資優遇では、新規投資プロジェクトが投資証明書を取得することで、設置段階(最大3年間)の設備・建材・機械の輸入関税とVATの免除、操業段階(開始後5~10年間)の法人税(BIC)や事業税の減免措置が受けられる。この操業段階の優遇期間は投資地域により異なり、開発が遅れた地方に投資するほど長期の免税(最大10年)が認められる仕組みである。

また、輸出指向企業については、製品の80%以上を輸出することを条件に「輸出加工企業(Zone Franche企業)」認定を受けることが可能であり、認定企業は長期にわたり法人税率の大幅軽減(場合によっては10~15年間ゼロ税率)や関税免除など特別な税制恩典を享受できる。

投資促進機関:

外国企業の進出を支援する公的窓口として、商工会議所内に「投資促進センター」が設置されている。また、政府機関としては民間投資・戦略的プロジェクト促進庁(ANPIPS)が投資誘致と事業環境の整備を担っている。これらの機関は投資に関する法令情報の提供、企業設立手続きの案内、各種許認可の調整などワンストップサービス的な役割を果たす。

ビザ・労働許可:

日本を含む外国籍者がニジェールで長期滞在・就労するには、渡航前に在外ニジェール大使館で長期滞在ビザを取得し、入国後は現地移民局にて滞在許可証(居住者カード)を申請する流れとなる。

さらに就労については、雇用主を通じて労働省または公共雇用庁(ANPE)に外国人労働許可を申請しなければならない。許可は通常1年更新で、就労者は毎年在留資格と就労許可の更新手続きを行う必要がある。

また、入国90日以上滞在する外国人は警察当局への登録義務も課される。

外貨規制:

ニジェールはCFAフランを採用するフランス共同通貨圏の一員であり、資本取引・為替管理についてはUEMOAおよびフランス銀行との協定に基づく共通規制が敷かれている。基本的に企業利益の本国送金や配当支払いに上限規制はなく、投資元本や利益は自由に送金できると法律で保証されている。

ただし、外貨の持ち出し・持ち込みや海外送金については中央銀行(BCEAO)の外為規則に従った申告と許可が必要である。輸出代金など外国通貨で得た収入は、一旦国内の認可銀行口座に入金し所定期間内にCFAフランに転換する義務がある(外貨建て口座の開設・保持には中央銀行許可が必要)。

7. 金融・資金調達制度

銀行口座開設手続き:

主要市中銀行としては、仏系のソシエテ・ジェネラル銀行や地場のソニバンク、国際系ではエコバンクやBOA(Bank of Africa)などが営業している。

口座開設にあたっては企業登記証明書(または設立中の場合は仮登記証)や納税者番号証明、代表者の身分証・署名届などを提出する。開設手続き自体は数営業日で完了し、初期預金として数万CFAフラン程度の預け入れが求められる。

銀行は厳格なマネーロンダリング対策を行っており、株主や実質支配者情報の提供も必要となる。

現地借入・金利水準:

政策金利:4%台半ば(2025年) 平均融資金利:年9~10%前後

ニジェールの金融市場は商業銀行による間接金融が中心で、企業の資金調達は銀行融資に依存する。

送金・為替サービス:

民間銀行は国際送金や為替取引サービスを提供している。CFAフランはユーロと固定相場のため、対ドル等の為替レートはユーロ相場に連動する。企業は銀行を通じて海外送金(貿易決済や配当送金等)を行う際、所定の為替申請書や取引証憑を提出する。輸入企業は銀行から信用状(L/C)発行等のサポートも受けられる。

個人送金についてはWestern Unionなど国際送金業者も広く利用されている。なお、多額の現金持込・持出は制限されているため、公式な金融経路を使うことが推奨される。

フィンテック動向:

金融包摂が課題となっているニジェールでは、近年フィンテックやモバイルマネーの普及が注目されている。携帯電話回線を利用したモバイルマネーサービス(Orange MoneyやMoov Moneyなど)が都市部から農村部まで広がり、銀行口座を持たない層でも送金・決済が可能になりつつある。

西アフリカ中央銀行(BCEAO)は加盟各国で電子マネーの規制整備を進め、UEMOA共通の決済ネットワーク(GIM-UEMOA)により異なる国間でもカードやモバイルで相互に送金できる環境が整備されている。国内でもI-Futur社の「iPayMoney」のように複数の決済サービスを統合するプラットフォームが登場するなど、新興企業がデジタル決済インフラを充実させつつある。

ただし、携帯普及率や識字率の問題もあり現金文化は根強く残っている。政府も給与支払いのデジタル化や公共料金の電子決済導入を推進しており、金融IT分野は今後成長が期待される領域である。

8. 文化・商習慣・その他リスク

契約遵守文化:

司法制度の整備不足から契約紛争の法的解決には時間がかかる傾向があるため、契約履行を確実にするには相手先との信頼関係構築や履行保証(保証金や担保取得等)の工夫が求められる。全般に時間に対する感覚は日本ほど厳密ではなく、締切や日程が守られないケースもあるため、進捗管理を密にし根気強く交渉を続ける姿勢が必要となる。

汚職・賄賂リスク:

ニジェールは腐敗認識指数(CPI)で180か国中107位・スコア34(2024年)と、腐敗リスクが存在する国である。公的手続きにおいて非公式な謝礼を求められるケースや、入札・契約での汚職疑惑が指摘されることもある。特に資源開発や大型調達分野では不透明な取引慣行が残存しているとされ、外国企業も現地代理人等を起用する際にはコンプライアンスに十分注意する必要がある。日本の「外国公務員贈賄防止」法令にも留意する必要がある。

治安・政情リスク:

治安および政治情勢の不安定さはニジェール進出に際して最大のリスク要因である。同国は独立以来クーデターが度々発生し、直近では2023年7月に軍事クーデターが発生して民選政権が崩壊し、軍政が樹立された。この政変により周辺国や国際社会との関係が緊張し、ECOWASによる経済制裁措置や国境封鎖が取られる局面もあった。

また、サヘル地域特有のテロ・武装勢力の脅威も深刻である。特にマリやブルキナファソ国境付近、ナイジェリア北部に接する南東部ではイスラム過激派による襲撃・誘拐事件が頻発し、首都ニアメも完全に安全とは言えない状況である。在留外国人や投資プロジェクトが標的となる恐れもあるため、厳重な安全対策(警備員の配置、移動時の車両防護、渡航制限遵守等)が必須である。日本政府も全土に渡航中止勧告(首都のみレベル3、その他地域レベル4)を出している。自然災害面では深刻な干ばつ・砂嵐が発生しやすく、また感染症の流行など保健衛生リスクも高いため、包括的なリスク管理が求められる。

パートナー関係構築の留意点:

ニジェールで事業を成功させるには、政府当局や現地ビジネスパートナーとの良好な関係構築が不可欠である。ビジネス文化としては人間関係や信頼を重視する傾向が強い。特に地方社会では部族や宗教コミュニティの繋がりが強いため、地域有力者の信用を得ることが事業円滑化につながる。

イスラム教徒が人口の大半を占めるため、金曜日の礼拝時間やラマダン(月例断食)の慣習に配慮し、アルコールの扱いなど宗教的感情を尊重することも重要なマナーとなる。

言語面では公用語のフランス語がビジネスで必須であり、通訳を介する場合でも契約書や公式文書は仏語で作成する必要がある。

9. 実務上のポイント・進出のしやすさ

日系企業事例:

日本の海外ウラン資源開発株式会社(OURD)がフランス系企業と共同でアコウタ(Akouta)鉱山の権益の一部(25%)を保有しウラン採掘に関与した事例など。

これまでの日本との関係は政府開発援助(ODA)や国際協力銀行(JICA)の技術協力プロジェクト(教育・水供給等)が中心である。

競争優位性・課題:

ニジェール市場の魅力としては、豊富な天然資源(ウランの世界有数の埋蔵、石油・金などの開発余地)や安価で若年層中心の労働力(平均年齢約15歳)を挙げることができる。また、西アフリカ経済通貨同盟・ECOWASの加盟国であるため、関税同盟と域内自由貿易のメリットから、人口3億人規模の西アフリカ市場へのゲートウェイとなり得る。

競争環境としては先行する中国・フランス企業のプレゼンスが強く、公共事業や資源開発では中国企業との競合が想定される。日系企業が進出する場合、自社の強み(高品質や安全技術)を活かしつつ、こうした経営環境上のハンデを乗り越える計画が求められる。

手続き難易度:

ニジェールのビジネス環境はアフリカ平均と比べても手続きの煩雑さが指摘されている。世界銀行「ビジネス環境ランキング」(2020年)では190か国中およそ132位と下位に位置しており、特に建設許可取得(同180位)や電力接続(同159位)で極めて低い評価となっている。

ただし、会社設立に関しては前述のワンストップ化により比較的短期間(2~3週間)で完了でき、制度改善がみられる分野もある。税務申告や貿易手続きでは電子システム導入が遅れている。

専門家ネットワーク:

・在コートジボワール日本大使館 ・JETRO(例えばラゴス事務所等の西アフリカ拠点)

ニジェールの国家会計士協会(ONECCA)に登録する公認会計士は数十名規模と限られる。

南アフリカ共和国の法人・会計監査・税労務等の基本情報

1. 国家基本情報

首都

  • 行政首都:プレトリア
  • 立法首都:ケープタウン
  • 司法首都:ブルームフォンテーン

人口

約6,200万人(2022年国勢調査)

公用語

公用語は英語を含む11言語。

通貨

南アフリカ・ランド(ZAR)

為替レートは1 USD=約18.5 ZAR(2025/05 月平均)

主要経済指標

GDPは約3,807億ドル(2023年)とサブサハラ・アフリカで第2位の規模を誇る。2023年の実質GDP成長率は0.6%と低迷し、インフレ率は6.0%(2023年平均)、失業率は約32%(2023年)と経済課題が大きい。

一方、輸出額は1,247億ドル、輸入額は1,234億ドル(共に2023年)で、主要輸出品は白金族金属・金・鉄鉱石・石炭・自動車など。

日本との関係では、南アフリカは日本企業のアフリカ最大の進出先であり、2023年時点で日系企業拠点数はアフリカ最多。日本は南アフリカの主要貿易相手国の一つで(南アの対日輸出品目は自動車等、対日輸入品目は白金族金属等)、経済協力や投資も活発である。

2. 法人設立制度

法人形態

南アフリカで事業を行うには、現地法人の設立または支店(外部会社)の登記が必要である。

現地法人の形態は主に公開会社(Ltd)と非公開会社(Pty Ltd)があり、一般的に日系企業は非公開会社形態を選択する。非公開会社は取締役1名から設立可能で株式譲渡に制限がある。公開会社は取締役3名以上が必要で株式を公開募集でき、証券取引所への上場も想定される。

外国企業が南アフリカで継続的事業を行う場合、現地法人化せずに支店(External Company)として登記する選択肢もある。

外資規制:

外資に対する包括的な持株規制はなく、南アフリカでは原則100%外資出資の法人設立が認められる。もっとも、産出資源への戦略や国益に絡む特定分野(例:鉱業権や農地保有など)では外国資本比率の制限や許認可条件が存在する場合がある。

また、黒人経済権限強化(B-BBEE)政策により、実質的な外資規制ではないものの、企業に黒人株主や従業員の登用を促す枠組みがあり、公共調達や特定産業ではB-BBEEで高評価の企業が優遇される。

資本金要件:

会社設立時の最低資本金の規制はなく、1ランドからでも法人を設立できる。出資金についても規制上の下限は定められていないが、事業規模に見合った適切な資本構成とすることが求められる。

なお、公開会社として株式上場する場合は取引所規則に基づく一定の資本要件や株主数要件を満たす必要がある。

登記手続き:

法人の設立登記は企業知的財産委員会(CIPC)で行う。まず会社名の予約申請を行い、定款(Memorandum of Incorporation)など所定書類を提出する。オンライン申請も可能で、登記完了までの所要期間は数日~数週間程度である。

登記完了後は南アフリカ歳入庁(SARS)への税務登録(法人税・VAT・給与税/PAYE等)や労働省へのUIF(失業保険基金)登録を行い、事業開始に必要な諸手続きを完了させる必要がある。また、事業分野によっては追加の営業許可や業種別ライセンスの取得が求められる。

3. 税制度

南アフリカの税務は南アフリカ歳入庁(SARS)が管轄し、主要な税目として法人所得税、付加価値税(VAT)、個人所得税などがある。以下に企業活動に関連する主な税制度を示す。

法人所得税(Corporate Income Tax):

税率は基本27%で、南アフリカ源泉の課税所得に対して課される(2023年3月以降開始事業年度より28%から27%へ引下げ)。内国・外国資本を問わず現地で事業を行う法人は原則として全所得にこの税率が適用される。

ただし、中小企業向けに税率軽減措置があり、年間売上高が2,000万ランド以下の小規模法人は課税所得に応じて0~27%の累進税率、それよりさらに小規模な零細企業(売上100万ランド以下)は一定額まで免税や低率課税(最大3%)が適用される特例がある。

なお、外国企業の南ア支店(外国会社)が本国へ利益送金する場合、追加の支店税はなく通常の法人税のみである。

源泉税(Withholding Tax):

南アフリカから非居住者へ支払われる所得には源泉徴収課税が行われる。配当金には20%の源泉税(Dividend Tax)が課され、利子およびロイヤルティには各15%の源泉税が課せられる。

南アフリカと日本の間には租税条約が締結されており、例えば日本の親会社が25%以上出資する子会社からの配当に対する源泉税は5%に軽減されるなど、一定の軽減措置が適用可能。

なお、サービス料等には基本的に源泉税はないが、建設工事など一部取引に対して例外的に課税が行われる場合がある。

付加価値税(VAT):

日本の消費税に相当する間接税で、標準税率は15%(2018年に14%より引上げ)。国内で供給されるほとんどの財貨・サービスに課税され、輸出取引や一部基本食品にはゼロ税率(0%)、金融・教育・住宅賃貸等特定分野は非課税となっている。

年間売上高が100万ZAR(ランド)超の事業者はVAT登録が法定義務となり、課税事業者(ベンダー)として定期的にVAT申告・納付を行う(月次または2ヶ月毎が一般的)。売上高5万ZAR超から任意登録も可能で、仕入VAT控除を受けるため小規模事業者でも任意登録を選択することがある。

個人所得税(Personal Income Tax):

個人の所得に対して累進課税が適用され、2023年度現在の税率は18%~45%である(最高税率45%は年間課税所得1,817,000 ZAR超部分に適用)。給与所得者の場合、雇用者が毎月PAYE(Pay-As-You-Earn)として源泉徴収し納税する仕組みになっている。

南アフリカ居住者は世界所得が課税対象となるが、一定の海外所得は非課税枠が設けられている。一方、非居住者は南アフリカ国内源泉の所得のみ課税対象となる。

給与所得に対しては雇用主・労働者双方から給与の1%ずつ失業保険拠出金(UIF)が徴収されるほか、雇用主は従業員訓練税(SDL)として給与総額の1%を別途納付する。社会保険料はそれらに限定的で、日本のような厚生年金保険は存在しない。

その他の税金:

上記のほか、南アフリカには資本的所得に対する課税としてキャピタルゲイン税(資本利得税)がある(法人の場合、資産譲渡益の80%を法人所得に加算し実質約21.6%の税率に相当)。

不動産を取得した際には物件価額に応じた移転税(Transfer Duty)が課され、一定額以下の住宅用不動産取引を除き累進税率(最大13%)が適用される。

また、鉱業権や天然資源の採掘にはロイヤルティ(Mining Royalty)が課される。

二酸化炭素排出量に応じたカーボン税も導入されており(2019年施行)、環境対策として排出企業に追加負担が生じる場合がある。

税制は頻繁に改正が行われるため、最新の税率や優遇措置については毎年度の予算発表を確認する必要がある。

4. 会計・監査制度

南アフリカの企業会計は国際水準に準拠しており、財務報告や監査に関する制度も整備されている。企業は適用区分に応じて国際会計基準を採用し、一定規模以上の場合は外部監査が義務付けられる。

会計基準:

南アフリカでは上場企業および大多数の非上場企業に国際財務報告基準(IFRS)が適用されている。

非公開会社など中小規模の企業については、IFRSを簡素化した「IFRS for SMEs(中小企業向け会計基準)」の適用が認められており、企業規模や利害関係者の状況に応じた会計処理が行われる。

いずれの場合も会計帳簿の調整・保存義務があり、年度ごとに財務諸表を作成することが法律で求められる。決算期は各社任意に設定可能だが、多くは12月末や3月末を年度末に採用している。

監査要件:

会社法により、全ての公開会社と一定規模以上の非公開会社には財務諸表の外部監査が義務付けられる。

監査要否はPublic Interest Score(PIS)と呼ばれる指標で判定され、PISは従業員数・売上高・負債・株主構成から算出される点数である。一般に、PISが350点を超える企業は強制監査の対象となり、PISが100~350点の場合も、財務諸表を社内で作成している場合には法定監査が必要となる。それ以外の中小企業でも、定款(MOI)や契約上の要請、自主的な選択により監査を受けるケースがある。

法定監査の対象とならない企業は、独立審査(Independent Review)と呼ばれる外部者による財務諸表レビューを受ける義務がある。ただし、株主=役員の同族会社でかつ年次財務諸表を社外の会計士に委託して作成している場合などは、監査・独立審査とも法定義務から除外される緩和措置も存在する。

なお、南アフリカにおける外国会社(支店)は原則として現地法上の監査・独立審査義務の対象外である。

登録要件:

監査業務を実施できるのは南アフリカ公認会計士(Chartered Accountant (SA))であり、かつ監査人登録機関(IRBA)に登録した監査人のみである。監査報告書には登録監査人の署名が必要となる。

独立審査を行うレビュー担当者も公認会計士など有資格者であることが求められる。

会計士・監査人の職業倫理は厳格に定められており、不正防止の内部統制やコンプライアンス体制の整備も企業の責務となっている。

財務諸表の提出:

全ての企業は会計年度末後、遅滞なく株主総会(年次総会)で財務諸表の承認を行い、所管官庁の要求に応じて提出できるようにしておく必要がある。特に公開会社や一定規模以上の企業は、CIPC(会社委員会)への年次報告として財務諸表を提出する義務がある。

上場企業は証券取引所規則により監査済み決算の適時開示も求められる。

これらに違反した場合、罰金や登記抹消等の制裁を受ける可能性があるため、適正かつタイムリーな財務報告が重要である。

5. 労務制度

南アフリカの労働法制は労働基準や雇用平等、労使関係に関する包括的な枠組みを提供しており、企業はこれらを遵守して人事労務管理を行う必要がある。主な事項として雇用契約、賃金、労働時間、解雇手続、労使関係などが法律で定められている。

雇用契約:

基本的就業条件は労働基準法(Basic Conditions of Employment Act)で規定されており、契約書には職務内容、給与、勤務時間、休暇、解雇通知期間などを明記する。契約形態は期間の定めのない常用雇用が原則で、有期契約はプロジェクトや代替要員など合理的理由がある場合に限られる。試用期間は3~6か月程度設けられることが多い。就業規則やハンドブックを整備し、企業内の勤怠・懲戒手続きを明文化しておくことも望ましい。

最低賃金:

南アフリカには全国一律の法定最低賃金が設定されている。2024年3月の改定後、最低賃金は時間額27.58 ZAR(ランド)となっており、フルタイム(週45時間)換算で月額約4,800ランド程度に相当する。農業や家事労働者等一部職種には別途最低賃金が規定されているが、一般企業で雇用する労働者には原則この全国最低賃金以上の賃金支払いが義務付けられる。

最低賃金は毎年見直されており、インフレ率等を考慮して政府が改定を行う。違反した企業には罰則が科される。

労働時間:

通常の法定労働時間は週45時間(1日あたり9時間〈週5日勤務の場合〉または8時間〈週6日勤務の場合〉)である。これを超える勤務は時間外労働(残業)となり、労使合意により週10時間を上限に認められる。時間外労働に対しては通常賃金の1.5倍以上の割増賃金を支払う義務がある(休日勤務は1.5倍、法定休日勤務は2倍の割増率が一般的)。

有給休暇は最低でも年15営業日(3週間)の取得が法律で保障されており、勤続12か月ごとに発生する。また病気休暇は3年間で30労働日分の権利が与えられ、出産休暇(4か月間の無給産休)や家族責任休暇(年間3~5日)も定められている。

これらの最低基準を下回る就業条件は無効となる。

解雇・退職:

労働関係法(Labour Relations Act)により、従業員の解雇には公正な理由(業務上の不適格・規律違反、能力不足、経営上の都合など)と公正な手続きが求められる。不当解雇と判断された場合、従業員は調停仲裁機関(CCMA)や労働裁判所に提訴し、復職命令や補償金支払いが命じられる可能性がある。解雇時の通知期間は勤務年数に応じて1~4週間以上必要である(試用期間中を除く)。

経営悪化等による整理解雇(経済的理由の解雇)の場合、30日前通知に加え、勤続1年当たり最低1週間分の法定退職手当(Severance Pay)を支払う義務がある。

定年年齢に関する法律上の規定はない。

労働争議・労使関係:

南アフリカの労働組合組織率は比較的高く、特に鉱業、製造業、公共交通などでは強力な全国単一労組が存在する。労使紛争が生じた場合、まずCCMA(労働争議調停・仲裁委員会)での調停を経て、解決しない場合に合法的なストライキまたはロックアウトに発展することがある。

ストライキは手続遵守の下で認められた権利であり、毎年労働者による大規模なストが発生している(賃上げ争議が中心)。企業は団体交渉協定に基づき年1回程度の賃金改定交渉を行うケースが多く、労使関係の安定には労組との建設的な対話が重要である。

また、雇用平等法(Employment Equity Act)により、従業員50名超の企業等には黒人や女性など被差別層の積極登用を図る雇用平等計画の策定・報告義務が課されている。これはB-BBEE政策の一環でもあり、人種・性別の多様性確保が企業の社会的責務と位置付けられている。違反時には罰金等もあり、人事制度上も留意が必要である。

6. 外国人進出企業向け制度

南アフリカ政府は海外からの投資を促進するため、企業進出を支援する各種制度や優遇策を用意している。特別経済区でのインセンティブや投資促進機関のサポート、外国人の就労ビザ制度、外為規制の枠組みが主なポイントである。

特別経済区と投資優遇:

政府は国内数箇所を特別経済区(SEZ: Special Economic Zone)に指定し、新規投資に対して税制優遇やインフラ提供などのインセンティブを与えている。例えば、一部SEZでは法人税率の優遇(15%への引下げ)や設備投資減税、関税の免除措置などが適用される。

また、製造業や農業、観光業など特定産業向けにも、補助金や融資制度、減税措置といった支援策が講じられている。

これらの制度を活用することで、外国企業は初期投資コストの低減や操業環境の改善が期待できる。ただし、優遇措置の適用には事前認可や実績報告など所定の要件を満たす必要がある。

投資促進機関:

南アフリカ政府は「南アフリカ投資促進機構(InvestSA)」を設置し、外国企業の現地進出をワンストップで支援している。InvestSAでは投資案件の相談対応、必要許認可取得手続の調整、関係当局との調整や現地ビジネスパートナー紹介などのサービスを提供している。

また、各州にも投資開発公社(例えばハウテン州のGEDAや西ケープ州のWesgro等)があり、地域ごとの投資情報提供や誘致活動を行っている。これら公的機関を通じて、進出企業は行政手続の円滑化や各種情報提供などの支援を受けることが可能である。

ビザ・労働許可:

一般就労ビザ(General Work Visa)

2024年10月の改正によって、一般就労ビザには新たにポイント制が導入された。下記のような項目を数値化し、一定の合計ポイントを満たす必要がある。

  • 学歴・専門資格
  • 実務経験年数
  • 年収(給与水準)
  • 南アフリカ人従業員への技能移転計画の有無
  • 雇用契約期間

高い給与水準や特定分野の先端スキルを有する応募者にはポイントが加算されるため、条件を満たせば比較的短期間で承認が得られる可能性もある。一般就労ビザの滞在可能期間は原則5年である。

高度技能ビザ(Critical Skills Work Visa)

南アフリカ政府の定める欠乏技能リスト(Critical Skills List)に合致する職種で、必要学歴・実務経験を有する外国人が対象となる。2024年10月改正でリスト内容が見直され、一部のIT・医療・エンジニアリング分野が追加された。改正後は、雇用先未定での申請は不可とされ、南アフリカ国内企業との雇用契約が申請時点で必須となる。ビザの有効期間は最大5年で、更新も可能である。

社内転勤ビザ(Intra-company Transfer Visa)

海外本社から南アフリカ法人へ出向・転勤する駐在員向けのビザである。2024年10月改正で、最長滞在期間が4年から5年に延長された。延長を申請する場合、当初の転勤期間中に現地スタッフへの技能移転を適切に実施した実績を証明する必要がある。グループ会社間の異動であれば比較的取得しやすいが、雇用契約企業が明確に親子関係にあることが前提条件となる。

リモートワークビザ(Remote Work Visa)

同改正で新設されたビザ区分で、南アフリカ国内に居住しつつ、海外の雇用主やクライアント向けにリモート就労する外国人が対象である。滞在可能期間は1年が基本だが、一定要件を満たせば最長2年まで延長可能となる。ただし、このビザでは南アフリカ国内企業との雇用契約や対価受領は認められない。申請には、海外との就業契約や十分な収入証明、居住先情報などを提出する。

その他の留意点

いずれのビザも南アフリカ大使館・領事館での事前申請が必要で、審査には数か月を要する場合がある。短期の商用訪問(90日以内)に関しては、日本を含む一部国の国民がビザ免除の対象となるが、会議や商談などに限定され、現地企業での就労は認められない。
改正内容は今後も追加的に見直しが行われる可能性があるため、最新の要件やポイント制の基準を常に確認し、十分な準備期間を確保して申請する必要がある。

外貨規制:

南アフリカ準備銀行(中央銀行, SARB)はAuthorized Dealerと呼ばれる市中銀行を通じて資金の流出入を統制しており、外国企業が利益送金や資本撤収を行う際には所定の報告・承認手続きが必要となる。

具体的には、現地法人が本国親会社へ配当金やロイヤルティ送金を行う場合、SARB指定の銀行にて利益計上や納税が適切に行われたことの証明を提出し、送金承認(Tax Clearance)を取得する必要がある。

また、親会社から現地法人への増資や社内貸付についても事前にSARBへの届け出を行い、後日の資本送還時に備えておくことが求められる。

外為規制下ではランド建て通貨の持ち出し制限などもあるが、近年は段階的な規制緩和が進められており、合法的な投資収益の本国送金は概ね保証されている。

もっとも、通貨危機時等には規制強化のリスクも考慮し、資金計画には余裕を持たせることが望ましい。

7. 金融・資金調達制度

南アフリカの金融システムはアフリカで最も発達しており、銀行取引や資金調達の環境は比較的整っている。もっとも、金利水準は日本に比べ高く、為替変動リスクも大きいため、資金計画において留意が必要である。

以下、金融実務上の主要ポイントを解説する。

銀行口座開設:

現地で法人活動を行うには南ア国内の銀行で口座を開設する必要がある。南アフリカの主要銀行(スタンダード銀行、ファーストランド銀行、ABSA銀行、ネッドバンク等)は世界的に信用力が高く、都市部に支店網を持つ。小切手文化は縮小傾向にあり、振込(EFT)やモバイル決済が主流である。

口座開設時には会社登記証明書(MoIやCIPC発行の証書)、役員・口座署名者の身分証明(パスポート)および居住住所証明、税番号(SARS発行の納税者番号)などの提出が求められる。これはFICA(金融情報センター法)に基づく厳格な顧客確認手続き(KYC)であり、マネーロンダリング防止の観点から必須である。口座開設プロセス自体は数日~数週間で完了し、インターネットバンキングや各種決済サービスの利用が可能となる。

現地借入・金利:

南アフリカの金融市場は発達しており、海外企業でも与信条件を満たせば現地金融機関からの借入が可能である。もっとも政策金利(レポレート)は直近で7.50%(2025/05時点)と高く、市中銀行の最優遇貸出金利(プライムレート)は約11%前後と金利負担は大きい。企業向け融資では不動産・在庫など資産担保や親会社保証が求められる場合が多い。

設備投資案件では開発金融機関(産業開発公社IDCなど)や政府系の低利融資制度を利用できる可能性もある。近年は金利高騰を背景に社債発行や本国からの社内融資で賄う企業もみられるが、本国からの貸付金は外貨規制上SARB承認を要し、利子支払いにも15%の源泉税が課される点に留意が必要である。

送金・為替:

南アフリカ・ランド(ZAR)は変動相場制で取引されており、対主要通貨で変動が大きい。

2010年代以降、ランドは資源価格や国際金融情勢の影響を受けやすく、対米ドル相場は10年で約2倍に下落するなど乱高下を経験している。為替リスク管理のため、現地銀行はフォワード為替やデリバティブ商品によるヘッジ手段を提供しており、輸出入取引の決済時期に合わせてレートを固定する企業も多い。

国外への送金は前述のとおり中央銀行管理下で可能であり、適切な手続を踏めば配当・ライセンス料・債務返済等を本国送金できる。資金移動にはSWIFTを利用した国際送金が一般的で、送金所要日は日本宛で2~5営業日程度である。外貨規制により一度に持ち出せる額など制約はあるものの、事業運転上通常必要となる範囲で大きな障害はない。

為替手数料や送金コストは日本より割高な場合が多く、契約通貨や支払条件の設定にも工夫が求められる。

フィンテックの活用:

南アフリカでは銀行サービスの電子化が進んでおり、法人・個人ともにインターネットバンキングやモバイル送金が広く普及している。

主要銀行のスマートフォンアプリで口座残高確認から振込、支払まで完結可能で、企業も給与振込や仕入支払をオンラインで効率的に行っている。

近年はフィンテック企業の台頭も著しく、電子ウォレットやQRコード決済(例:SnapScanなど)、ECプラットフォーム向け決済代行サービスなど新しい金融サービスが登場している。

暗号資産やブロックチェーンを用いた送金も試験的に行われ始めている。

金融当局も革新的サービスに理解を示し、規制サンドボックスを通じてフィンテック育成を図っている。

総じて南アフリカの金融制度は信頼性が高く、最新テクノロジーも取り入れながら進化している。

8. 文化・商習慣・その他リスク

南アフリカでビジネスを行うにあたっては、現地独特の商習慣や潜在的リスクへの理解が欠かせない。契約交渉のスタイルや倫理観、治安情勢など、日本とは異なる側面を事前に把握し適切に対応することが重要である。

契約文化:

南アフリカのビジネスは基本的に英米法の流れを汲む商習慣にあり、契約の成立・履行には書面(契約書)の取り交わしと当事者間の合意内容の明確化が重視される。口約束や暗黙の了解に依存することは少なく、契約書には取引条件・納期・支払条件・責任分担・紛争解決条項(調停や仲裁の合意事項)まで詳細に規定されるのが一般的である。

汚職リスク:

国有企業を巡るいわゆる「国家の私物化(State Capture)」問題など腐敗スキャンダルが過去に大きく報じられ、企業が官公庁と取引する際には不透明な要求に直面する可能性が指摘されている。国際NGOの透明性国際による腐敗認識指数(CPI)では南アフリカは41(100点満点中、2023年)となっており、主要先進国と比べスコアは低い。

治安・政情:

南アフリカは政権交代も安定した民主主義国家である一方、治安面では凶悪犯罪の多発する国でもある。特にヨハネスブルクやプレトリア等の都市部では強盗、車の窃盗、侵入盗、誘拐といった犯罪が日常的に発生し、邦人を含む外国人も被害に遭うケースが報告されている。企業としてはオフィスや工場にセキュリティシステムや警備員を配置し、従業員の通勤にも安全対策を講じる必要がある。夜間の徒歩や治安の悪い地域への立ち入りは避け、自動車移動時もドアロックや停車時の警戒を怠らないことが肝要である。

政治情勢については、長年与党ANC(アフリカ民族会議)による政権運営が続き大規模な政治混乱は起きていないものの、近年は経済低迷や汚職問題から政権への批判が高まっている。2024年の総選挙ではANCの得票率が過半数割れし、今後の連立政権誕生や政策の不透明感が指摘される。

加えて、国家電力会社Eskomの経営難に起因する電力不足は深刻で、2018年頃より全国規模で計画停電(ロードシェディング)が常態化している。電力制約は工場稼働や店舗営業に直接影響し、治安悪化や追加コスト(自家発電機やUPS設置等)を招く大きなリスクとなっている。

パートナー選定上の留意点:

日系企業が現地企業や代理店と提携する際には、慎重な相手先選定と契約上の担保が重要となる。進出初期には現地事情に通じたローカルパートナーの協力が有益だが、相手先の信用度や実績、人脈に過度に依存しすぎないよう注意すべきである。提携前にデューデリジェンス(財務内容や評判の調査)を実施し、契約書で権利義務や知的財産の扱い、損害賠償条項などを明確化することで、後のトラブルを防止できる。

また、B-BBEE政策の下では黒人株主持分や現地経営参画が企業評価に影響するため、官民問わずビジネスを円滑に進める上で信頼できる黒人パートナーとの提携は大きなメリットとなり得る。

ローカル企業の中には政界との太いコネを売りにするケースもあるが、腐敗リスクを伴う提案には毅然と対応する必要がある。

9. 実務ポイント・進出のしやすさ

日系企業の進出事例:

南アフリカにはトヨタ自動車や日産自動車をはじめ、日本の製造業・商社・金融機関など多種多様な企業が進出している。トヨタはダーバン近郊の工場で乗用車を生産し、現地市場だけでなく欧州や日本向けにも輸出する成功事例として知られる。また建設機械のコマツは現地法人を設け鉱山向け重機販売・サービスで大きなシェアを有している。商社各社も資源・インフラプロジェクトに参画し、みずほ銀行や三菱UFJ銀行などメガバンクもヨハネスブルクに拠点を置く。

2023年時点で日系企業拠点数はアフリカ最多であり、業種も製造業から卸売・物流、サービスまで幅広い。現地法人の業績も概ね好調で、JETROの調査によれば在南ア日系企業の実に8割以上が2024年の業績見通しを「黒字」と回答している。このように多数の先行企業が培った知見やネットワークがあるため、新規進出企業にとって心強い土壌が整っているといえる。

南ア市場の魅力と課題:

南アフリカは豊富な鉱物資源と工業基盤、購買力のある中間層人口を抱え、アフリカでは突出した経済規模を持つ。有力企業の本社が集積するヨハネスブルクは“アフリカの経済首都”とも称され、南部アフリカ開発共同体(SADC)加盟国へのゲートウェイとしての地位を占める。

インフラ面では港湾・空港や幹線道路、通信網が比較的整い、サプライチェーンの構築もしやすい。また、ビジネス上の使用言語が英語であり法制度も整然としていることから、外国企業にとって事業展開しやすい市場環境が整っている。

一方で課題も存在し、近年は経済成長の鈍化や慢性的な電力不足、高失業率に伴う治安不安などが投資マインドの阻害要因となっている。

また、国内市場規模(GDP約3,800億ドル)は先進国に比べれば限定的であり、高級耐久消費財など一部を除き購買力は中所得国水準に留まる。

アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)発効により域内市場の一体化が進む中、南アだけでなく周辺国も含めた広域展開戦略が求められる局面でもある。

総じて、南アフリカは 「アフリカ市場参入の足掛かり」 としての優位性を持ちながら、内在する経済・社会課題への対処も必要な市場といえる。

進出手続の難易度:

南アフリカのビジネス環境は法制度が整っており行政サービスも比較的充実しているため、途上国の中では進出手続は平易な部類に属する。会社設立登記はオンラインで完結可能、税務登録も電子申請が整備されている。ただし官公庁によっては処理に時間を要するケースもあり、例えば労働ビザの取得には数ヶ月単位の時間を見込む必要がある。

南ア政府はInvestSAによるワンストップショップを設けて手続簡素化を図っているので、進出準備段階から同機関に相談することで各種申請を効率化できる。またJETROや現地商工会議所などの支援機関からも手続情報を得られる。

全般として、進出のしやすさはアフリカ諸国の中でトップクラスではあるものの、日本や先進国に比べれば官僚手続は煩雑で、意思決定のスピード感も緩やかである。従って、余裕を持ったスケジュール計画と専門家のサポート活用が円滑な立ち上げのポイントとなる。