スーダン共和国の法人・会計監査・税労務等の基本情報

 

1. 国家基本情報

 

 

 

首都

首都:ハルツーム

通貨・為替

通貨:スーダン・ポンド(SDG)
為替:1米ドル=600.50スーダン・ポンド(2025年5月平均)

経済指標

人口:約5,000万人(2023年推計)
名目GDP:約300億米ドル(2024年IMF予測)
1人当たりGDP:約600米ドル(同)
実質成長率:約-20%(2024年・IMF予測)
消費者物価上昇率:約200%(2024年・IMF予測)

主要産業は石油・鉱業・農業などで、石油・金・油糧種子が主要輸出品である。輸出相手国はUAEや中国、サウジアラビアが上位である。

日本との関係

日本からの輸出:約5000万米ドル
日本への輸入:約1150万米ドル

日本とは1956年に外交関係を樹立した。以来、ODAを通じて2005年以降累計約12億米ドル以上の支援を行っている。日系企業の進出例は稀で、2024年時点で日系企業は数社程度である。経済協力は主にインフラ整備や人道支援が中心である。

2. 法人設立制度

法人形態

代表的な企業形態として、有限責任会社(LLC)や株式会社(Joint Stock Company)がある。合名会社・合資会社といった組合型や、個人事業も法的には認められている。外国企業は現地法人を設立するほか、支店(Branch)設立も可能である。

外資規制

基本的に投資分野は広く開放されている。外資100%所有のLLC設立が可能であるが、投資促進法令で最低資本金額(USD100,000)が定められる場合がある。外国人出資会社は、総合商取引や輸出入など一般商取引業務に従事できず、特定プロジェクト向けの単一目的会社とされる。

資本金要件

最低資本金は法定で1万スーダン・ポンド(約16米ドル)と極めて低額であり、実務上は銀行手数料などの実務要件を満たせば設立可能である。ただし、外国人100%出資LLCの場合には10万米ドル(約100,000USD)の資本金が求められる規定があるとされる。

登記手続き

会社設立はハルツーム州投資促進委員会内の会社登記官(Registrar of Companies)へ申請する。

申請時には複数の事業名案、設立申請書、定款・覚書(Memorandum and Articles of Association)、取締役・発起人の身分証明書、事業計画書などを公証の上で提出する。外国投資の場合は投資許可の取得(シングルウィンドウ制度に基づくワンストップサービス利用)も必要となる。

3. 税制度

法人税

法人所得税率:35%

公益事業や農林水産、石油会社など特定業種は異なる税率が適用される場合がある。国外企業(非居住者)にも同率の源泉課税がある。

付加価値税(VAT)

標準税率:17%

食料品や医薬品などは免税または軽減税率が適用される。情報通信や一部金融取引には30~35%と高い特殊税率が課される。輸出向け取引はゼロレートとなる。

個人所得税

個人所得税は累進課税方式で、給与所得の最高税率は15%程度である。非居住者の所得は源泉徴収される。宗教的立場から一定以上の資産保有者にはザカート(イスラム教の寄付税)として2.5%が課される。

その他の税金

契約書や公文書には印紙税が課税される(税率は文書種別による)。不動産取得税や資産譲渡税もある。輸入関税は物品により異なり、一般に5~30%程度。環境税や印紙税、ギャンブル税などの間接税も存在する。

4. 会計・監査制度

会計基準

金融機関以外の一般企業には特定の会計基準義務がなく、慣行的に自社基準やIFRS準拠を用いる場合も多い。銀行・保険会社は世界基準のIFRSを適用するよう規定されている。

監査要件

上場会社や大企業、金融機関では外部監査が義務付けられるが、中小企業や非上場会社では監査義務は原則ない。商法上は会計監査の規定が古く、本格的な会計検査基準や監査法人制度は整備途上である。

登録要件

公認会計士や監査法人には政府または会計協会への登録が必要とされるが、実務上は日本のような厳格な登録制度は未確立である。大手監査法人は進出実績がほとんどなく、資格人材が非常に限られている。

財務諸表の提出

銀行・保険業者は主管官庁(中央銀行・保険監督庁)に年次財務報告を提出し監督を受ける。一般企業は税務当局への法人税申告時に損益計算書などを提出するのみで、政府機関への報告義務は限定的である。

5. 労務制度

雇用契約

スーダン労働法(1997年法等)では有期契約と無期契約が認められている。書面契約は法的義務ではないが、雇用条件明示のため実務上推奨される。雇用関係は一般的に西洋式の雇用契約に基づく。

最低賃金

全国統一の法定最低賃金は定められていない。ただし政府や労働当局が参考線を示す場合があり、業界・地域・雇用形態ごとに賃金水準は異なる。賃金は通常スーダン・ポンド建てで月払いが一般的である。2022年頃は月額425SDG(約1USD相当)など低額の目安が示されていたが、現在のインフレ環境下では実質賃金維持が大きな課題となっている。

労働時間

法定労働時間は週48時間(6日×8時間)が標準とされる。金曜日は週休であるのが慣習的に多い。8時間超の労働は原則残業とみなし、雇用主は残業手当を支払う必要がある。休憩時間や休日出勤の割増賃金についても労働法で規定されている。

解雇・退職

企業都合解雇の場合、通常1~2ヶ月前の通知または同等額の給与を支払う義務がある。懲戒解雇には厳密な手続き(警告や聴聞など)が求められる。

労働者による退職(辞職)時も同様に通知期間が必要とされ、無断退職は賠償責任を生じることがある。

業績悪化やリストラの場合には勤続年数に応じた退職手当が支給される。

労働争議・労使関係

労働組合の結成は認められているが、実態としてはスーダン労働者連盟(唯一組合)が強い影響力を持ち、政府との関係で自主性に限界がある。

労働紛争は労働裁判所や労働局の調停を通じて解決を図る制度がある。

賃金未払いや不当解雇に対しては調停・仲裁の仕組みが利用可能であるものの、司法制度の執行力に課題がある。

6. 外国人進出企業向け制度

特別経済区と投資優遇

スーダン政府は輸出加工区や自由貿易地域を整備しており、代表例として紅海沿岸のポートスーダンに「紅海自由経済区」がある。これら特別区内の企業は輸入関税免除や法人税減免、インフラ利用など優遇措置が受けられる。

工業団地やインフラ型市場(プライベート自由区)も複数開発されており、一定期間の免税や簡素化手続きが提供される。

投資促進機関

投資促進を担う政府機関として、国家投資庁(Investment Organ/Ministry of Investment)や州ごとの投資奨励局が設置されている。シングル・ウィンドウ(ワンストップ)制度が導入されており、事前承認から設立、ライセンス取得まで一括した窓口手続きが可能である。

投資法に基づき、承認済みプロジェクトには税・関税優遇や外貨送金自由化の保証が与えられる。

ビザ・労働許可

外国人の長期就労には入国前にビジネスビザ(または就労ビザ)を取得し、到着後に雇用主が労働省へ就労許可申請を行う。必要書類には会社登録証明、納税証明、雇用契約書、学歴・職歴証明、警察証明、医療検査証明などが含まれる。

審査には数週間~数ヶ月かかることがあり、許可取得後は在留許可(居住証)を別途申請する。家族帯同ビザもあるが、労働者本人の雇用継続が条件となる。

外貨規制

2022年以降、通貨は市場レートで自由化されているが、外貨取引には中央銀行の管理が残る。外資系企業は中央銀行に投資口座(フリーアカウント)を開設することにより、認可のもとで利益・配当・借入金の送金が可能となっている。投資法は資本および利益の本国送金権を保障しており、中央銀行の許可手続きを経ることで外貨レミッタンスが認められる。

7. 金融・資金調達制度

銀行口座開設手続き

法人の銀行口座開設には、登記簿謄本(Certificate of Establishment)や登記事項証明、納税者番号(Tax ID)、定款・規約、取締役決議書などを提出する。外国企業の場合、現地法人の設立・認証書類が必要となり、代表者や口座管理者の身分証(パスポート)が求められる。

開設には複数日~数週間かかり、対面での面談やデューデリジェンスが必須である。

現地借入・金利水準

商業銀行は法人向け融資を行うものの、貸出金利は非常に高い。2025年時点で政策金利は約13%前後(スーダン中央銀行)、実質貸出金利はそれより高い20~30%以上となっている。

高インフレと信用リスクのため貸出抑制的であり、借入の審査は厳格である。政府保証つきローン等の制度は限定的で、金融市場は未発達である。

送金・為替サービス

国際送金は銀行送金が基本である。主要銀行は海外送金サービスを提供し、一部モバイルマネー業者も国際送金に対応している。海外送金には大使館レターや輸出入許可など書類が必要となる。

両替は中央銀行登録の外貨両替商(Sharia両替業者)でのみ正式に可能で、黒色市場レートとは距離があるものの、徐々に統一が進んでいる。

フィンテック動向

スーダンではフィンテックが急速に普及している。主要銀行が提供するモバイル決済アプリ(Bankak by Khartoum銀行、OCash by Omdurman National銀行など)や通信事業者のデジタルウォレット(ZainのBede)が広く使われている。これらは送金や公共料金支払いに利用され、特に内戦下で重要なライフラインとなった。

国民の約77%が携帯電話を所持しており、銀行口座不要の電子財布サービス(MyCash, RittalPayなど)も登場している。

8. 文化・商習慣・その他リスク

契約遵守文化

スーダンでは口約束や人間関係に基づく商取引が根強く、形式的な契約書の厳守よりも合意の実行可能性が重視される。司法制度は手続きが遅く不透明なため、企業間トラブルは仲介者による調停や政府機関の介入で解決されることが多い。

汚職・賄賂リスク

政府機関や役人の間で贈収賄が横行し、手続きの迅速化に不正が絡むケースがある。透明性指数では上位から外れており、インフラ受注や公共事業では注意が必要である。外資系企業も事業運営上、贈賄禁止規定(国内外の法律)を厳守しなければならない。

治安・政情リスク

2023年4月以降、政府軍と準軍事勢力(RSF)間の内戦状態が続いており、地域によっては激しい戦闘が発生している。キーストラテジックポイントや市場、インフラ施設への襲撃・放火が多発し、治安状況は極めて不安定である。国際社会からは渡航禁止勧告が出ており、外国人職員も停戦地以外への移動が制限されている。

パートナー関係構築

イスラム文化が強く影響するため、宗教行事(特に金曜礼拝)やラマダン等の慣習を尊重することが求められる。

現地語(アラビア語)または英語でのコミュニケーションが必要で、文化の違いを理解した上で根回しや関係構築を進めるべきである。

9. 実務上のポイント・進出のしやすさ

日系企業事例

日系企業の進出例は極めて限られている。社会インフラ整備や鉱山開発などでJICA・JBICが支援した案件があるが、純粋民間企業での活動はほとんどない。2024年時点で報告されている日系企業数は数社程度であり、主に技術協力や国際機関経由の関与にとどまる。

競争優位性・課題

優位性としては豊富な天然資源(農地、鉱物資源、紅海アクセス)が挙げられる。周辺地域(エジプト、サウジ等)への地政学的優位性もある。

課題は政情不安と治安リスク、インフラ未整備、常態化するインフレ・通貨安、煩雑な官僚手続きが進出障壁となる。市場規模自体は大きいが、実需・購買力は低く、パートナー選定とリスク管理が鍵となる。

手続き難易度

官庁手続き・許認可は複雑で遅い。文書申請や公証取得には時間がかかり、申請書類の翻訳・認証が必須とされる。税務・労務関連でも法令解釈が曖昧で、実務は裁量的な運用が見られる。

専門家ネットワーク

国際的な監査法人や法律事務所はほとんど進出しておらず、英語・日本語を操る専門家は極めて限られる。進出時は外国務省や経済連携機構、現地日系コミュニティを通じたネットワーク形成が必要である。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA